12


天馬君の連れてきた歓迎会のメンバーがサッカー部の一年生と、一部のギャラクシーイレブンのメンバーで本当に良かったと心から思う。天馬君曰く、『残念だけどさくらはこの間沖縄に帰っちゃったし、井吹は月山国光の合宿があるから今度の試合まで会えないし、瞬木は弟も連れて行ったら流石に木枯らし荘がパンクするだろうって言うし…森村はあんまり人が多いと困るって言ってて、九坂も森村が行かないなら〜なんて言って。まあ今度の試合のあと、俺たちだけで歓迎会すればいいかなって思ってるから!いいんだよ!寂しくなんてない!』…らしい。

帰ってきたヒミコちゃんに倉庫から普段は使わない土鍋を引っ張り出してもらい、有働さんにはテーブルを並べてもらって、渋る辺九津さんに座布団を並べてもらった頃に天馬君が友達を引き連れて戻ってきた。私と秋さんは大きな土鍋を二つ、コンロに置いて火にかける。仕事が遅くなるかもしれない、と言っていた小暮さんたちの分はしっかり確保して、鍋をテーブルに運んでいく。


「名前ちゃん!もう食べていいの!?」
「落ち着け天馬、もう少し待て」
「神童君はもしかして鍋が初めてなのかな」
「皆帆、それは流石に俺をバカにしているんじゃあ…」
「食べたことあるとしても、高級食材たっぷりな鍋のイメージが…」


狩屋君がねえ、と同意を求めて振り向いてきたから思わず口元が緩んだ。「でもある意味高級食材よりレアな食材かもしれないよ、神童君」買い出しのことを思い出しながら神童君の方を向くと、彼は私が置いた鍋を穴が空きそうなほどに見つめていた。いや見つめても中身が透視出来るわけないと…思うんだけどどうなんだろう。出来るんだろうか。もしかして宇宙に行けるような中学生って普通の人には出来ないようなことが出来るんだろうか。透視も出来たり…いやないない、流石にない。


「名前ちゃん、どういうこと?レアな食材?」
「スーパーでね、野菜選んでくれたのオズロックなの」
「………えっ」
「帰りも荷物持ってくれてねー、でもおじいちゃんみたいでねー…あれ、そういえばオズロックは?」


主役なのに鍋の前に座っていないオズロックに気がついて、天馬君に向き直ると目の前を小さな影が恐ろしい速さで横切った。い、今の影は電気ねずみによく似ていたような…「名前ちゃん」「え、な、なに天馬君…」いつになく真剣な目で私を見据えた天馬君から一歩後退ると、横を笑顔の影山君とそれに引き釣られて狩屋君が通り過ぎていくのが見えた。な、なんだっていうの…私何かおかしいこと…言ったな。言った。あれ?これ私がまずい?


「…二人で、行ったの?」
「…………うん」
「俺としては全然構わないしむしろ良かったねって言いたいんだけどさ、名前ちゃん」
「は、はい、なんでしょう天馬くん…」
「ずるい!オズロックだけずるい!名前ちゃんのバカ!」
「わああああっ!?」
「俺だって名前ちゃんの荷物持てるもん!名前ちゃんのバカ!」
「ちょっ、天馬くん、天馬君待って私今、バランス、あっ無理」


飛びかかってきた天馬君を受け止め……きれなかった私は案の定フローリングに思いっきり倒れ込んで壁の角で頭を打った。ごん、と小気味良い音が響いて目の前に一瞬だけ星が瞬く。視界の隅で神童君と剣城君が私に手を合わせているのが見えた。バカバカバカ、と私の肩を掴んで揺らす天馬君に今度一緒に買い物に行こう、と言う気力がないままぼんやりと天井を見つめると、ぱらぱらと埃が降ってくる。この上って私とか、オズロックの部屋があるあたりだよねえー…あー……オズロック本当ごめん……うわ目に入った!


六日目:パーティ前



(2015/02/22)