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「秋さん、今帰りました」


キッチンに顔を覗かせると、ボウルを抱えた秋さんがあらおかえりなさい、と出迎えてくれた。「お疲れ様、二人共ありがとう。…重かったでしょう?」「……問題ない」目を逸らしてぶっきらぼうに、でも冷蔵庫の前まで荷物を運んでくれるオズロックはもう怖いなんて二度と思わないだろう。秋さんにお釣りとレシートを渡して、ボウルの中身を覗き込んだ。茶色いクリームがつん、とツノを立てている。

ロールケーキを焼こうと思って、とオズロックに聞こえないように小さく秋さんが囁いた。「名前ちゃんのところからチョコレートがたくさん届いてたし、…良かったかしら?」「もちろんです!使えるものはなんでも使ってください!」ぶんぶんと手を振ると、ふふ、と楽しそうに秋さんが笑う。


「名前ちゃん、クリーム味見する?」
「え、いいんですか」
「もちろん。はい、どうぞ」


スプーンですくった一口分、差し出されたクリームを断る選択肢なんて存在しないので私は遠慮なく秋さんにクリームを食べさせてもらう。ふわり、とミルクチョコレートの風味が広がってからクリームは舌の上でとろりと溶けた。「…すごく美味しいです、秋さん」「チョコレートが良かったみたい」美味しいのは名前ちゃんのおかげね、とウインクしてみせた秋さんの言葉に頷いた。美味しいケーキが食べられるんなら、兄の仕送りに感謝しないこともない。


「……もういいか」
「あ、オズロック!本当に助かったよ、ありがとう」
「…………」


荷物を置いてキッチンを出ていくのに、確認を取るオズロックは少しでも気を許してくれたってことなんだろうか。お礼の言葉に返されるものが無言でも、もう笑みしか溢れないからこの小一時間で私は随分感化されてしまったんだと思う。キッチンを出ていったオズロックが階段を登る音を聞きながら、オズロックもやっぱり天馬君達の友達なんだなあとしみじみ実感することになった。うーん、オズロックみたいなタイプは何て言うんだろう?大人びているけど子供っぽさもあるというか…


「名前ちゃん、敬語じゃなくなったのね」
「…あ、ほんとだ」
「一緒に買い物に行ってもらって正解だったかしら」


仲良くなったみたいで良かったわ、とからかうような口調の秋さんはとても楽しそうだ。「私も天馬と同じように、オズロックと名前ちゃんは仲良くなれると思うもの」「みんなそう言うみたいですけど…どうしてですか?」根拠を求めて秋さんを見上げると、あら、と少し悪戯っぽい表情で秋さんが私の額を指でつつく。


「きっと、すぐに分かるわよ」



六日目:キッチンにて



(2015/02/11)