09



「あ、スーパーはこっち…です」
「………」


気まずい!と何度頭の中で繰り返したことだろうか。

終始無言のオズロックをスーパーへ導くのに、私は悪戦苦闘していた。だってずっと鉄仮面、話しかけても反応ナシ、曲がり角でスーパーと逆方向に行こうとするから進路を正そうとすると睨まれる…神様、よろしければ一瞬だけでいいので天馬君のコミュニケーション能力を私に預けてくれませんでしょうか。そうしたら私戦える。

いっそ手を引いた方が楽なんじゃなかろうか。気難しい犬の散歩みたいな…「うわああっ!?」「っ、」反射的に手を伸ばして、オズロックの腕を掴んで引いた。曲がり角に設置されたミラーが映した青い車は、私と距離を開けて歩くオズロックに気がつかずこっちに曲がって来たからだ。ぼんやりと考え事をしていた頭でも、緊急時には回るように出来ているらしい。

オズロックは車よりも、私が手を掴んだことが不快だったらしい。「……」無言で睨まれた後、私の手は振り払われて宙を舞う。余計なことをするな、と小さく呟いたのが聞こえたのは幻聴だと思いたい。いや、そりゃあ天馬君の知り合いだし、すごく超次元なサッカーするんだろうし、宇宙人なのかもしれないけど!車は流石に危ないってば!


「この辺りは車の通りが多いから気をつけて!…ください」


フン、と鼻を鳴らしたのが聞こえた。ついでにうるさい女だ、って吐き出されたのも聞いた。ええ、聞こえましたとも。地獄耳じゃなかろうと、聞こえるように言われた小言を聞こえないふりなんてしませんとも。


「怪我をしてからじゃ遅いって言ってる、んです!」
「このような文化の遅れた星の産物、恐るるに足らん」
「…よく分かりませんけど、車に跳ねられたらサッカー出来ませんよ」
「それがどうした」
「天馬君達に毎日看病されたいんなら、自由に歩き回ってください」


効果は、ばつぐんだ!黙り込んだオズロックの服の裾を引っ張って、自分の立つ場所と彼の立つ場所を入れ替えた。自分の体を車道側へ。流石の堅物宇宙人も、天馬君や、天馬君の友達に大丈夫、オズロック大丈夫、足は大丈夫、早くよくなってね、と四六時中言われるのを想像したらそりゃあまあ、言うことを聞くだろうなー…天馬君達のことは好きそうだ(好きじゃなければ、ホームステイなんて応じないだろうし)けど、必要以上に干渉されたくなさそうだもの。「スーパー、もうすぐですよ」「…」今度は大人しく、隣を歩いてくれるオズロックの気配を感じながら思う。


「おじいちゃん……」
「…なんだそれは」


じろり、と目が動いて私をもう一度睨んだけどそっと目を逸らして回避した。いやあだって、方向音痴だし車に気がつかないし、怪我しないとか言っちゃうし、でも怪我したら面倒ですよって言ったら素直に場所入れ替えに応じてくれる。スーパーもうすぐですよ、も語尾におじいちゃんって付けたら完璧だ。


「オズロックおじいちゃん…」
「………どこまで吹き飛ばされたい」
「じょ、冗談!冗談だから!」


ぶんぶんと首と手を振れば、般若の顔になっていたオズロックが渋々構えていた足を地面に下ろした。割と本気でそれは遠慮したいので、心の中でだけおじいちゃんと呼ぶことにする。


六日目:買い出し道中



(2015/02/03)