絨毯の敷かれた廊下
「ナマエ、好きだ」
腕を引かれて、顔を近づけられて。
端正に整ったリュゲルの、普段とはまったく違う真摯な表情に頭の中が真っ白になった。まさかリュゲルがこんな顔をしてこんな真っ直ぐな言葉を私に投げかけてくるような―――そんなことが起こるなんて予想もしていなかったのだ。
私の目はまん丸に見開かれて、ただただ驚きを表現するだけだった。口元が開いて、声にならない声を絞り出した。好きなんだ、とリュゲルが繰り返した。私はリュゲルから恋愛対象として見られている。
何か、何か言葉を返さないといけない。リュゲルの目がどうしてなにも答えてくれないんだと言わんばかりに細められた。思わず俯いて言葉を探すのに、なにも口から出てこない。それぐらいに驚くばかりだった。リュゲルは嫌いじゃない。むしろ好きだ。でも、その私が抱くリュゲルへの"好き"は、リュゲルが私に向ける恋愛対象としての好きではなく友愛の方の好きなのだ。
―――それに、私には好きな人がいた。
「………ご、めんなさい」
掠れるように出てきたのは謝罪だった。それを何度か繰り返した。「私もリュゲルが好きだよ。…でも、そういう風に見たことは…一度も」本当のことなのに、嘘なんてついていないのに胸がきりきりと痛めつけられる。思わず地面へと視線を落とす。
「いいんだ。これからそういう風に見てくれれば」
顔を上げた。リュゲルは笑顔だった。優しい、慈愛に満ちた笑顔を私に向けていた。とても眩しいその笑顔にくらくらとする。分かった、と答えざるを得なかった。例え無理だと分かっていても、そう答えることしか私には考えられなかった。絶対にそういう目でりゅゲルを見ることが出来ないと頭で理解しているのに、どうして理解を示したのだろう。
――――そして、これが全てのはじまりだった。
(2014/01/04)