03


現状を説明させていただこう。


「………はあ」
「本当に申し訳ありませんでした」


正座。剣城の怒りに触れた結果が正座である。好奇の目線と呆れの目線(監督と神童と天馬君)に晒されながらの正座である。そして冷めた目で私を見下ろす剣城。…正直、かなり屈辱的なのだが自分に非があるから反抗なんて出来なかった。


「もういいです。……で、何でここにいるんですか」
「やだ剣城冷たい…!心の友達じゃなかったの私達!」
「…………………………」
「あ、うんごめん本当ごめん。ふざけないから!ふざけないから無言でボール構えないでくれる!?」


必死で手を振ると流石に私が哀れになったのか、「もう立っていいですよ」と相変わらずの冷たい目が私に降り注いだ。やばい、これかなり辛いわ!「足痺れた…ううっ」「自業自得です」公共の場で上から降ってこないでください、という呟きが聞こえてしまって、ますます言葉に詰まってしまう。「先輩先輩、剣城はね、いきなり抱きつかれて照れてるだけだろうからあんまり気にしなくていいよ」「天馬君…」「違うからやめろ天馬」そうだね!剣城の態度は大抵こんな感じだったね!今までがデレ過ぎてたんだよね!「……剣城、涙を拭け」「頑張れ剣城!俺、応援してるから!」「励ますのやめてくれます!?」あれ?何で剣城は半分涙目なんだろう。というか、こんなやり取り以前にもどこかでやらなかったっけ?気のせいかな


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「――まあ、そんなわけでまたマネジやらせて貰う事になったよ」
「そんなわけ、の意味を俺は問いたいんだが」
「何で神童機嫌悪いの?」
「……気にするな」


新生イナズマジャパンのメンバーに挨拶をした後、黒岩監督に呼び出された天馬君を待つ間に神童の元へと歩けば、『必死で怒りや不安を押し隠しています!』オーラがばりばり放射されていた。しかし気にするなと言われてしまえばそれまでなので苦笑だけで済ませておく。「で?お前はどうしてマネージャーになったんだ」「葵ちゃんと同じ。今朝いきなり連絡があったの。正直びっくりしたわー、朝の走り込みのルートがどこからバレたのやら……」努力している姿は人に見られたくないタイプなんです、私。だから朝五時の公園であのコーチさんのお姿を確認した時はびびりましたよ。戦闘態勢取ってましたもん。


「しかし、"非常事態用ベンチ"とは…?」
「ああそれ?なんかね、選手に万が一の事態が起こってどうしても出場出来ない!って時の補欠なんだって」
「万が一の事態でなくても、この際名前、お前の力が必要だと言ったら?」
「うーん、私は黒岩監督に正式に選ばれたわけじゃないからねー。無理じゃない?」


私のチーム加入は、黒岩監督に『好きにしろ』と言われたコーチの独断行動だったらしい。神童や天馬君や剣城がいるから二つ返事で了承したけど、まさかサッカーを身守る側とは……!「正直すっごい歯痒いのよこれ!マネージャーなんてぬるい!私サッカーしたい!」そのために普段の数倍は努力をしていたあの日までの一ヶ月。「……でも、ここに選ばれたメンバーは私以上に努力をして、日本代表の座を掴んだ人たちだもんね。全力で支えていくつもりだよ」力仕事なら任せろ!と神童に拳を突き出すと、何故かその腕を掴まれた。そのまま腕を引かれて監督たちとも、選手メンバーとも離れた場所に連れて来られる。


「……神童?」
「名前、お前は代表選考の後すぐに帰ってしまったんだろ?放映されていたエキシビジョンマッチは見たか?」
「あの帝国との試合でしょ?まだ観てないけど…えっ、勝ったんじゃないの?」
「……そうか、お前は知らないのか……」
「え、な、何…?私だってかなりショック受けて泣いて過ごしたりしてたんだよ!?妬ましく思っちゃうから観なかったんだけどそれが何か!そうですよ!私だっt「あいつら――俺達以外は全員サッカー未経験者だ」………は?」


**


「今日の練習、見ててどう思いました」


練習も終わり、時刻は夕暮れ。グラウンドで使った道具なんかをまとめて宿舎に運ぼうと担ぎ上げている私に声をかけてきたのは剣城だった。既にジャージに着替えている剣城の隣には神童。天馬はイナズマジャパンのメンバーを葵ちゃんと共に宿舎に先導している。「どう思ったって言われても、私は選手じゃ…」「誤魔化すな」ふむ、誤魔化す作戦は見事に失敗したな。こりゃ正直に答えるしかないか。


「今の状態で世界一は不可能なんじゃない?」


まず、練習が基礎の基礎からである。いや、練習自体が悪いわけじゃない。悪いわけじゃないのだが……「運動をしたことない、ってメンバーがほぼディフェンスなのは流石に危ない橋を渡ってる気がするなあ。――今は、ね」「"今は"、ということは今後改善される見込みがあると言いたいのか?」「神童、黒岩流星って人は凄いんだよ!?海外で相当な実績を持ってるし、その人が選んだんだからきっと多分何かあるんだって!……た、多分?」「疑問形じゃないか!」「神童先輩、落ち着いてください」「……ッ、悪いな、剣城」先に行ってる、と言い残して天馬君の元へと歩いていく神童。


「名前さんは、あの監督の事を知っているんですか?」
「あの人が率いてたチームの試合を観たことがあるんだ……っと」


よっこらせ、と連なったコーンやカゴに入ったボールを持ち上げる。「…相変わらずのお手前で」「お褒めに預かり光栄です」もうここまで来ると私の普通よりもちょっと強い力にはツッコミを入れなくなってきた剣城である。慣れとは怖いな。「どんな試合だったんですか?」「DVD持ってるから、今度剣城にも見せてあげるよ」私が感想を述べたところで、それはかなり一方的なワンサイドな物の見方になってしまうのだ。「ほら剣城!早く宿舎行こうよー!」この状態だと剣城の顔を見て喋る事が出来ないのだから、さっさと片付けてしまいたい。



初練習

(2013/06/12)