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シャムシール戦当日。

問題を起こした九坂を監督はやめさせなかった。コーチはぶつくさ言っていたけど、選手は11人なのだから一人でも欠ければ支障が出るとのことだった。私の存在は無視されている…わけではないと信じたい。お前に今出てもらうわけにはいかない、と監督がすれ違いざまに私に言ってきたので、あー…まあ何かしらの考えがあるんだろうな、という結論に至った。決して考えるのが面倒だったわけじゃないよ!

声を合わせたあと、グラウンドに散らばるみんなを見送ってシャムシールの選手をちらりと見た。今回はきちんと最初から最期までベンチに座っていられるかな、なんて思いながら地球人に擬態した宇宙人を見やる。口元を歪ませた選手達は皆、まるで獲物を狙う獅子だ。


「あれ?」
「どうしたんですか、苗字先輩」
「いや、九坂が……相手じゃなくて観客席見上げてるみたい」


――ホイッスルが鳴った瞬間、剣城と瞬木が駆け出していく。

少し焦っているような様子の九坂が体制を立て直して、きちんと相手選手を見据えたのでほっとした。ただでさえまだ経験の浅いメンバーで固めているDFラインだ。ゴール前に歩いていく神童の様子を見るだけで、神童がいかに霧野達を信頼していたかが分かる気がした。井吹はゴール前で神童といつものやりとりをしているらしい。あの二人ほんと仲良いなあ。本人たちに言ったら必殺技出してきそうだけど。


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前半開始数分でシャムシールに先制点を決められたジャパン側は、思うように攻撃出来ずに戸惑っているようだった。そして九坂の危険なプレイで一時的な試合中断。呆ける葵ちゃんの隣で顔色ひとつ変えないみのりちゃんと監督には聞こえなかったのだろうか。九坂の舐めんじゃねえぞ、と叫んだ声が。温厚な九坂は何を言われてあんなになったのか、フィールドにいない私には分からない。

が、ひとつ分かるのはシャムシールのFWの二人が九坂を見て笑っていたということだ。それも嫌な笑い方で。目を付けた、とでも言った方がいいのだろうか。不穏な空気のまま前半が終了してしまった後、九坂はスタジアムの中に姿を消した。後半は九坂をプレイから外すというみんなの会話の横で、まともにプレイする気があるのかね!?と九坂に叫んでいたコーチがぶつくさと不満を垂れ流しながら何度もメガネの位置を直していた。……あの人いつかストレスで胃を壊すんじゃなかろうか。少なくとも不安要素についての心配は共感出来るところがあるので胃を案じずにはいられない。

まあ、それはさておき。そんな私は現在、目の前にとても面倒くさそうな人影を見つけて冷や汗を流している次第です。この人…宇宙人?暇じゃないだろうになんでこんなところにいるんだろう。窓の外にはうっすらと蜃気楼のように消えては現れ、を繰り返す巨大な宇宙船。いやー九坂にせめてきちんと休憩をと言おうと思って探しに来ただけだってのに…私何かしたのかなー?何にもしてないはずなんだけどなー!


「お、お久しぶり…デスネー」
「……名前、お前は馬鹿だろう?」
「なにそれひどい」


事実だ、と真顔で言ってくる相変わらず顔色の悪いオズロックはすうっと目を細めて一歩一歩、私と距離を詰めてくる。流石に逃げ出すのも癪だけどなんだか……試合のある日、しかもハーフタイムにだけ会える宇宙人ってどんなだ。また会おうとは言われたけど、こんなに頻繁に会ってたら私試合に来るの嫌になるぞ!?



これで何度目?



(2014/03/12)