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車のなかで何度誰がいるのか、と問い詰めたことだろうか。
そして何度、あの楽しそうな楽しそうな笑顔を見ることになったのだろうか。


「……帰りたい」
「よく分からんが苗字、元気を出せ」
「白竜君が良心に見えるとか本当、…本当……」
「っ!?おいやめろ苗字!剣城に俺が殺される!」


精神的に耐えられず白竜君に縋りつくと、必至で引き離されてしまった。顔が赤いってことは純情なんですね、分かります。でも正直そんなの今はどうでもいい。瀕死寸前の私には、まずはキャプテンからと紹介された白竜君ぐらいしか心の拠り所が無いのです。だってほら!ほら!ここに居るのって!


「おーおー、いたいけな中一男子を誘惑か名前」
「南沢さんが居るなんて聞いてないよ!?」
「まあまあそんな事言うなって。仲良くしようぜ名前、同じフォワードだ」
「耳元で囁かないでくださいっああああ!」
「ん?顔が赤いな?ん?」
「はくりゅうくん……私…わたし……」


もうやだ帰りたい、と言うとそれは駄目だ、と返された。「キャプテン命令だ。苗字の能力があれば戦いの幅が広がるだろ」「高評価は嬉しいけど…!」南沢さんと一緒なんて聞いてない。本当に帰りたい。いや、南沢さんを嫌っているわけでは…ないけれども。

以前私は合計二度、南沢さんに告白されている。一度目はよく恋愛なんて分からないからと断り、そしてそのまま海外留学をすることで逃げた。二度目の時、私には好きな人がいた。そしてその相手は剣城で、南沢さんはそれを知っている。その上で私に想いを伝えてくれたのだ。以前とは違う伝え方で。

問題はここからだ。私は確かにしっかりと、南沢さんの気持ちを受け取れないと言った。言った直後に南沢さんは諦めないと言ったのだ。予想外の方向に転がってしまった私達の関係は、なんとも言い表しがたいものである。私が剣城を好きなのは変わらないと何度言っても、南沢さんはこうして(なんというか、少しだけ大人な手段…要するにえろい手段で)アプローチしてくるのである。ほらさっきの耳元で喋る、とか。吐息を吹きかけてくるとか。スキンシップだとか。

自分から触れるスキンシップは好きだ。でも、南沢さんだけはなんというか、苦手だ。声が色気を含みすぎている。大人の余裕で、ぐらつかせようとしてくる。いきなり顔を近づけられるのなんて、心臓が爆発しそうになるから本当にやめて欲しい。

―――要するに、あまり関わりたくないのです。


「何故だ?」
「…白竜君話聞いてた?」
「いや、好意を示されているのだろう。喜ばしい事ではないのか」
「喜ばしいのは喜ばしいんだろうけど、私は剣城が!」
「それを略奪しようとするから燃えるんだろ」
「っふぐぁい!?」
「な、なるほど…その発想は無かったぞ。流石だ南沢」
「白竜君どうして納得したの!?」


彼の両腕を掴んでがくがくと揺さぶ――ろうとすると南沢さんに腕を掴まれた。「ほら、白竜は理解したぞ」「わけがわからないです!」必至で南沢さんの魔の手から逃れようとするが、頼りの白竜君は何やら腕を組んで俯いたまま、ぶつぶつと考え込んでいる。す、救いは!?救いはないんですか!?誰か救いを私に!私に!






「あれ、苗字さん!?今日から監督が連れてくる新しいメンバーって、もしかして君?」
「貴志部君んんんんんんんん!!!」


ぞろぞろと歩いてきたレジスタンスジャパンのメンバーの一番先頭にいた顔見知りに、掴まれた腕を振りほどいて全力で駆け寄って抱きついた。「え!?あの、苗字さん!?」混乱してるみたいだけどもう私知らない。なにも考えたくない。貴志部君は良心だってはっきり分かります救いはあった…!あったんですね!ありがとう神さm、


「よう」
「………へ?」
「相変わらずのアホ面してんな」
「………………や、まと……さん?」



再会の日



(2014/02/07)