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前半が終わって、ハーフタイム。

得点は1-1。ビッグウェイブスはすぐに点差を詰めてきた。必殺タクティクスで神のタクトを封じて。まるでデータと違う動きだ、と神童はさっき呟いていたけど――「いや、まあ本物のビッグウェイブスじゃないし…」中身は宇宙人、だなんて誰にも言えるはずはないけれども。

後、気がかりが一つある。さくらちゃんの動きだ。真名部の視界に入り込んだり、好葉ちゃんの足を踏んでしまったり。葵ちゃんに氷を宛てて貰っていた好葉ちゃんは、なんだかさくらちゃんに怯えているようで…あの二人は練習もペアになることが多いし、これがきっかけでこじれてしまったら厄介である。

とりあえず、私はちらちらとさくらちゃんが客席を伺っているのを見ていたのだ。そんなわけでこうして客席へ向かうため、スタジアムの内部の廊下を歩いているというわけです。いやあしかし、何故だろう。誰もいない廊下にデジャヴのようなものを感じて背後を振り返れないんですよこれが。


「……気がついているのなら振り向いたらどうだ」
「あ、あれー?風の音かな?なにも聞こえなかっ………ゴメンナサイ」


**


豪炎寺さんからそれなりの説明を受けた私だけれど、銀河連邦評議会から派遣された…それなりに立場のある人って絶対こんなに暇じゃないと思うんです。そこのところどうなんでしょう。


「私の名前を聞いたのだろう」
「……い、いやあ、まあ……ねえほんとに宇宙人なの?えっと、ビ、ビット…」
「ビットウェイ・オズロック」
「そうだった!」


いや覚えていなかったわけじゃないんですよ?ただちょっと、あの時は豪炎寺さんの目の前だってことでテンションが高くてつまり興奮していたわけで!「オズロックかあ。…変な名前」思わず素直な感想を口にすると、オズロックの目がスッと細くなった。「この辺境の星の民の方が私達にとってはおかしな名前を名乗っている」「そんなものなの?」「そんなものだ。私にとっては君だっておかしな名前を名乗っているさ。苗字名前?」わあ、ドヤ顔で名前当てられた!怖い!


「で、オズロックはどうしてここに?」
「……」
「暇なの?」
「そんな筈無いだろう。馬鹿なのか」
「いやあ、バカでも分かるよ。こんなとこに居るのって要するにひm「視察だ」…ハイ」


視察、って言葉がやけに強調されているように感じたのは気のせいか。

目の前の異星人を思わずまじまじと見つめてしまう。「…なんだ」不愉快だが、とこちらを睨みつけてくるこの人は、なんというか…とんでもないこの大会の開催者側なんだよなあ……「ねえ、主催側がこんなに関わってきていいの?」思わずの問かけに、小馬鹿にしたような笑いが返ってくる。「愚問だな。好んで関わっているわけではない」えっじゃあ私は暇潰しというか、そんな感じ?宇宙人(それも男)に気に入られてしまってもなんとも…「だが、」かつん、と靴音が響いた。顔を上げるとさっきより、オズロックの距離が近い。


「観察対象としての興味はある。……葛藤する姿は非常に興味深い」
「は、はあ…観察対象?」
「気紛れで"薬"を投じてみるものだ。名前、君がそうやって誰にも話せない、と抱え込んでいる姿は非常に面白いな。ケースの中の実験台を眺める科学者とやらはこんな気分なのか?」
「…よくわかんないけど、なんかすごく嫌だ、それ」
「そうだろうな」


顔と顔が触れ合う危険が出てくるぐらいの距離に詰められて、酷く動揺した。「分かってるのにやるって…」タチが悪い。剣城のタチの悪さというか、心をかき乱していく感じは心地の良さというかくすぐったさも伴うけれど、オズロックからは恐怖心と怯えしか煽られないから嫌だ。なんとなく、弱腰になってしまう。


「では、また会おう」


いつの間にか私は肩を強ばらせ、拳を握り締めていたらしい。すっと離れていったオズロックはそのまま私に背を向けて、目の前でぱっと消えてしまった。思わずへたへたと床に座り込んだ私が窓の外を見やれば、巨大な宇宙船…艦のようなものが一瞬だけ姿を現して、そして消えた。



とても心地の悪いそれ



(2014/01/24)

薬=大会の真実。
気紛れでほんとのこと教えたらぐるんぐるん悩み始めたから、面白いなーって結論付けられた。つまりフラグです。