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こちらと同じく敵も、相手の情報をきちんと得ていたらしい。
攻め込まれるばかりでなかなかパスの繋がらない状況下、再び前回と同じように神童がゴール前に仁王立ちをしていた。井吹がまた何事か言っているようだけど、安全策と言えば安全策である。事実、危ないところを何度も神童は救っている。
――でも、気になるところが一つだけ。
丁度目の前でボールを持ち上げた、さくらちゃんの肩が小刻みに震えているのだ。「…そういえば…」「苗字先輩?」「この間、さくらちゃんのご両親が面会に来てたなって」角度が良いものでちらちらと、噛み締めた唇が見えてしまう。
そういえばさくらちゃんとはまだ全然話が出来ていないなあと思っていると、鉄角が動いてパスを受けた。そのまま走り出したさくらちゃんの掛け声に呼応して鉄角がボールをさくらちゃんにパスし―――『おおっと、パスミスだーっ!』あれ、という疑問の声は実況の音声にかき消された。敵にボールが拾われそうになる、その瞬間。
「っ、わ…!」
―――グラウンドを華麗に舞う、桜色。
歓声が響いた。美しいジャンプでボールを奪取したさくらちゃんは、「――かっこいい!」そしてかわいい!「……やっぱり、押されている」興奮して立ち上がった瞬間、みのりちゃんの静かな声がベンチに響いた。「でも、みんなすごく上手くなっていますよ!」葵ちゃんはとても嬉しそうに私に微笑む。「私も思う!」同意すると葵ちゃんからも笑顔が漏れた。……マネージャーに徹するのも、いいのかもしれない。
「……そうだと良いがな」
――監督の、やけに冷めた声に聞こえないふりをした。
フィールドでは、イナズマジャパンに攻撃のチャンスが回ってきていた。神のタクトが機能しているのだ。さくらちゃんが蹴り、九坂くんが繋ぎ、瞬木から天馬君へ。――そして、剣城に。思わず黙り込んで、拳を握り締めていた。見た事のない動きをする剣城。
「"バイシクルソード"!」
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「……っ、」
「苗字先輩っ!やりましたよ!先制点!」
嬉しそうな葵ちゃんの手が、私の手を握っている事に気がついてハッとした。「え、私…あれ」「やった、やったあ!」小躍りしている葵ちゃんに、もしかして私呆けてた、なんて聞けるはずがない。でも、確かにホイッスルは鳴り響いたのだ。得点板を見上げると1-0の表記がきちんとある。
……剣城の新しい必殺技が、得点になった。
「苗字先輩!剣城君が、決めましたよ!」
「う、うん、分かってる。分かってる」
どうしよう、顔が熱い。葵ちゃんと目を合わせられなくて、目を逸らすとグラウンドの剣城と視線がぶつかった。即座に恥ずかしくなって顔を俯かせるけどもう遅い。――剣城が、私の顔を見て口元を緩めたのを見てしまった。恥ずかしさでどうにかなってしまいそうだ!
要するに恋は病気ということで
(あんなに格好良いのは反則だ)
(2014/01/24)