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瞬木に連れられてみんなと合流すると、剣城(と何故か井吹)が訝しげな目線でこちらを見てきた。「名前さん、…大丈夫ですか?」「何やってたんだ」前者が剣城、後者が井吹である。何事も無かったようにするりと私から離れていく瞬木の背中に、なんとなく逃げられたような感覚を抱きながら井吹の苛立ちをやんわりと和ませ剣城に大丈夫だよと笑顔を返す―――……無理!そんな事出来る程器用じゃない!


「瞬木ー」
「どうしたの、苗字」
「というわけで井吹パス!」
「は?」


マネージャー業務をサボるなだの、一人だけ何をやっていたんだだの、多分神童とまた何かしらあったんだろうね!と発想させる勢いで苛立っている井吹を無理矢理瞬木の方へ押しやった。「っ、めんどくさ…!苗字っ!」小さく覚えてろよ、なんて私は聞いてない聞こえない。あーあー人より耳が良いなんてそんなことないよー!


「……何やってるんですか」
「ほんと、こんな時になにやってんだろうね」


私は大丈夫だよ、と言うと少し眉をしかめる剣城。ああもう、そんなに心配しなくていいんだってば。「神童は?」「先に行ってます。俺達も早く行きましょう」様子を見る限りだと多分、井吹も瞬木も試験を受けないのだろうなということは察せた。剣城が天馬君に続いたから、私は剣城に続くことにする。


**


―――歓声と、カメラのフラッシュが眩しい。

スタジアムへ入った私達を歓迎したのは席一杯のお客さんとテレビカメラ達。瞬間、試験がどんな状況下で行われるのか理解する。やっぱり大人…というか監督は何枚か上手らしい。

観客も取材陣も、全て監督が収集したと神童は言った。脱退試験は代表選手のシュートを見せるというパフォーマンスの名目で行われることになっていたのである。無人のゴールへのシュート、全て外せばイナズマジャパンから抜けることが出来る。


「……こーれは、流石に、」


外すなんて出来ない。流石にこれは外せない。

恥ずかしいなんてものじゃないだろう。その後の競技人生の(小さいながらも)確かな汚点に成りうるのだから。顔をしかめていると綺麗な顔が怖くなってるよ、なんていつの間にか近寄ってきていた皆帆に耳元で囁くように言われた。うるさい!と小声で返してやる。「あとその、…こういうときに綺麗、とか…!」「へえ、素直な賛辞に弱いんだね。参考になるよ」墓穴を掘った、と思った時にはもう遅い。「なんの参考か分からないけどあのね、」「剣城君に伝えておこう」「みっ…!」思わず伸ばした手は鉄角達の元へ戻っていった皆帆へは届かない。


「名前さん、時と場合を考えましょう」
「うううっ…!」


最近やけに掴まれる確率の高い首根っこを掴んだ剣城の声は非常に低い。要するに怖くて逆らえない。ああ拝啓優一さん、最近京介君が本当のお母さんより私のお母さんっぽくて辛いです…と、茶番はこれぐらいで終わり。みのりちゃんのアナウンスがスタジアムに響き、一番手に誰が名乗りを上げるかで試験を受けるメンバーは迷っているようだった。さてさて、誰が一番手に名乗りを上げるのか。


―――出来れば、誰にも出ていって欲しくないと、


思うのはエゴも入っているのだろう。自分の浅ましい思いをかき消して欲しいと確かに思っている部分があるのだ。そんな私とは裏腹に、天馬君を見やれば瞳が揺れていた。……ああ、「みんな、瞬木みたいにさ、ちょっとでも天馬君に心を許してくれさえすれば…」全てが丸く収まっていくんじゃないだろうかと思うところだってあるのだ。ぽつり、と落ちた言葉はきっと誰にも拾われなかったと思う。

(……でも、一人でも抜け落ちたら、……その時は?)













――結局、一番に名乗り出た鉄角がシュートを決めたことによって、続く全員が脱退試験に失敗。つまり全員が残る意思を示したのだ。変わらないメンバーのまま、イナズマジャパンは次の対戦にコマを進めることになった。




ぐるぐる、ぐちゃぐちゃ、ごちゃまぜに

(嬉しくもあり、寂しくもあり)
(悔しさがあるのにそれ以上にほっとしている)

(2014/01/16)

認められなくて悔しがってる主の葛藤でした