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やはり、黒岩監督と選手との間に結ばれた"契約"のせいで一部のメンバーが練習に来なくなってしまっているらしい。天馬君が落ち込んだり、やる気を出したりと表情をくるくる変えていた。頭も下げていた。が、メンバーに表情の変化が見られる兆しは今のところ無し。

自らの欲半分、希望半分で好葉ちゃんに声を掛けようとしてみたものの、声を掛ける前に逃げられてしまった。警戒されているのが目に見えてしまったのでショックが隠せない。打ちひしがれているとさくらちゃんが大丈夫ですよ、なんて声を掛けてくれたので速攻元気になりましたけれどね!無理矢理元気を叩き起こしましたけどね!……はあ。

ちなみに井吹はすぐにどこかへ消えてしまったのでタイミングを逃したのだけど、練習に来ないメンバーの中では一番会話をしたことが多い皆帆に一応は声を掛けてみた。「天馬君もああ言ってるし、ちょっとだけ見に来てみない?」と。結果、自分は相手の行動を分析出来るから練習は不要だとばっさり一刀両断。分析出来てもボールが取れる実力があるかどうかは別問題である。何より相手は世界…いや、世界じゃない。宇宙人だ。異星人だ。異星の精鋭なのだ。――地球大丈夫かなあ。


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「名前さん、ちょっと良いですか」


次の日の早朝。

みんなの練習のための準備をしていると、声を掛けてきたのは剣城だった。びくりと跳ねる肩と爆発しそうな心臓を深呼吸で押さえ込む。この間の試合のシュートが余りに眩しくて、なんだか直視出来ないのはその、恋愛補正ってやつなんでしょうか!


「……名前さん?」
「う、うん!聞いてる!なに?」
「挙動不審ですけど。……ああ、何かやらかしたんですか。俺で良ければ、」
「違う!そんなんじゃない!違うから!」
「それじゃ体調でも悪いんですか?珍しく赤く――」
「言うな!言わないで!そんなことより要件をどうぞ!?」


何故だろう、私が自覚していると、剣城が無自覚に煽ってくる…!ような気がする。はじけ飛びそうな心臓をしっかりと抑えると、やはり不思議そうな顔をされた。お願いだから私を見ないで欲しい。剣城に見つめられるとこう、無条件に顔に熱が集まる気がするのだ。「一つ、お願いがあるんです」「…お願い?」何その素敵ワード。ときめいちゃう。


「今日は俺、天馬達とは別に練習をしようと思ってて」
「…ほ、ほうほう」
「で、名前さんにも手伝って欲しいんです。俺と同威力のシュート打てますし」
「……ん?それって剣城一人の練習…?」
「いえ、井吹が頼んできたんです。キーパーの練習をしたいとかで、それで名前さんも誘おうと思って」
「あ、あー…そういうお願い、かあ……」


井吹には悪いが、少しがっくりとなってしまった。ちょっと剣城とふたりっきりになれるのかも、だとか、私を頼ってくれたんだ、だとか。素敵ワードに踊らされて期待をしていた分落胆は大きい。が、練習に顔を出していなかった井吹に練習意欲が湧いたのは良い事だ。うんうん、素直にそっちを喜ぼう!「うん、私で良ければ何でも手伝うよ」ちなみにこの言葉の裏には剣城に良いところを見せたいし、という気持ちが半分ほどあります。ええ欲まみれです。反省も後悔も何もない。これが私です名前という女です。だってほら、


「ありがとうございます。…助かります、嬉しいです」


うっすらと笑顔を浮かべた剣城の、その顔に心臓が飛び跳ねるのだ。ああ、もうこの笑顔を向けられただけで幸せでいっぱい。さあ、今日も一日頑張ろう!



君のよろこび私のよろこび



(2013/12/06)