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そういえば、明王の兄さんはどうして豪炎寺さんのところにいたんだろう。


「あの様子からすると、なんだかこの話知ってるみたいだったし…」


ぶつぶつと呟きながら目の前を見ず、足元だけを見てふらふらと歩く私の様子は普段の私を知っている人からすれば、さぞかし滑稽に見えるだろう。しかしそんな事には構わず、私は延々とぶつぶつ呟くはめになっていた。それも宇宙人だの、地球の存続を掛けた戦いだの、憧れの人にサインを貰えた喜びだの、とにかく色々な事があったせいだ。

そもそもどうしてあのビットウェイ…オズビット?いや違う、オズロックだ。彼は私に接触したんだろうか。予選が終わるまで話は伏せておくように頼んだのだと豪炎寺さんは言っていたのに、何故?そもそも私が本戦に登録されているとはどういうことなのか。ああもう、早く黒岩監督に問いただしたい!…が、今の私に必要なのは頭を冷やす時間である。一度冷静になって、今後自分がやらねばならない事を考えねばならない。


「………」


――宇宙人って可愛いのかなあ。

カラフルな色の、軟体動物のようなものしか宇宙人と言われても思いつかない。…い、いや!希望を捨てるのはまだ早い!あの…オズ…異星からの使者は今思い返せば、それなりに整った顔立ちをしていた。ということは彼の同族の、美しい女の人の宇宙人が存在する可能性もある!

今度オズビット(もうこう呼んでやることに決めた)に会った時、綺麗な女の人がいるかどうか聞いておこうだなんてそんな事を考え始めると、自然と気分は盛り上がってきた。可愛い女の子も大好きですが、私は美人のお姉さまも大好きです。クールビューティーならばなお良しだと思います。でもでも年上なのにドジでうっかりしてて、ミスするたびに落ち込んでるそんなお姉さんも捨てがたい。いやでも―――って、うわ!?



「うわあっ!?」
「え、あ、え!?」



**


耳に届いたのは衝突音。どん、と体と体がぶつかる音がして私は尻餅を付いていた。「い、っつつ……」それは相手も同じらしい。これは流石によそ見をしながら歩いていた上、ぼうっと考え事をしていた私が明らかに悪い。

謝らないと。

素早く立ち上がると相手の顔と服装が確認出来て――あ、あれ?「皆帆?」「やー、ひっどいね苗字さん…」「う、うわ、ごめん!」イナズマジャパンのジャージを身にまとった、相手はまさかの皆帆だった。あ、そういえばもうこの辺はエリアの範囲内なのか。ぼんやりとしていて気がつかなかったけれど、いつの間にか繁華街のエリアまで私は歩いてきていたらしい。

私が差し出した手を自然な動作で握り返し、立ち上がった皆帆がジャージをはたいた。「遠目からすごい早足で歩いてくるのが見えたからね、さっきタクシーでどこかに行っちゃったし」推理出来なかったから直接聞こうと思ったんだけど、僕に気がつかないんだからと少し呆れたように笑う皆帆に愛想笑いを返した。まさかまだ見ぬ異星の美人に想いを馳せていただなんて口が裂けても言えるはずがない。

そういえば今は練習の時間だろうに、どうして皆帆はこんな繁華街で一人なのだろうか。練習は、と問いかけるのもなんとなく躊躇われて口を閉ざした。お金で雇われていると言っていたから、出なくてもいいとか、…そんな感じ?


「で、苗字さんはどこに行ってたんだい?」
「んー、秘密!人間観察が得意なら推理してみてよ」


そんなことを言ってウインクなんてしてみせる私だけれど、私が皆帆の立ち位置にいたら宇宙人の話を聞いていました、なんて当てられない。絶対に無理だ。言われても信じないし馬鹿にするし、それ以前に想像だにしない。さーて皆帆はどうなんでしょう、当てられたら私尊敬してやるぞ、なんて思いながら振り返ると割と深刻そうな顔で唸っていた。「苗字さんそのものがよく掴めないからなあ…」「えー、私以上に掴み易い人物像がどこにあるのさ!」女の子が大好きが原動力ですよ?「剣城君を好いている、って事ぐらいしか知らないや」「〜〜〜っ!?」「あ、顔が赤くなった。へえ、うん、わかりやすい…かもしれないね」「うるさい黙ってくださいお願いします!」



指摘されると恥ずかしい

(でも否定できないのは事実だから、だ)

(2013/12/06)