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「監督、お聞きしたいことがあります」
「………苗字か」


何だ、と書類から目を離さないままでこちらに返事を寄越した監督。デスクに歩み寄ると部屋の暗さをより一層感じられた。

本来なら私はコーチに連れて来られただけの、ただの部外者だった存在だ。それでも聞きたいことは聞きたい。答えられないなら答えられないで、自分で探すだけ探すつもりではあれど…そもそもあのスタジアムで会ったやつが、言った事が冗談だと信じている。狐に化かされたなんて結果だったらもう大喜びだ。――だって、私が目指しているのは世界。世界中のプレイヤーのサッカーを観たい。あわよくば競い合いたい。それがずっと夢だったのだから。女子も参加可能、その言葉にどれだけの希望を抱いたプレイヤーがいるだろう。


「…チームメイトの"契約"のことか?」
「そんなことじゃありません。…それも、気になりますけど」
「では何が聞きたい」


椅子を少し動かして、こちらを向いた監督のサングラスに私が映った。そういえば天馬君や剣城、神童意外は"契約"でチームに入ったと言っていたんだっけ。それも大きいショックだったと今更ながらに思い出した。――泣きたくなるぐらいの衝撃を、まさかあんな緑色の液体に塗り潰されるなんて思っていなかったなあとどこか頭の隅で思う。


「前半の試合の途中、ベンチにおらずスタジアムの通路に私はいました」
「……」
「監督の言った、その"契約"の話がショックだったからです。私は実力じゃない、別の判断基準で世界への切符を失った。監督に問い詰めたい気持ちがあったことはあります。でも、一瞬にしてそれは無くなりました」
「……ほう?」

「―――人間じゃないような、まるで宇宙人みたいな人が目の前に現れたんです」


**


私が地球代表だ云々のくだりは省き、一回戦の前半の間、私がスタジアムの通路で聞いた話をまとめて監督に話し終えると、監督は何も言わずに数拍置いて携帯電話を取り出した。えっ何の反応も無し?もしかして頭おかしい子と思われた?わあいマネージャー解任ですかー?なんて思っていたらおもむろに一言二言電話の相手と会話をした後、立ち上がった監督が私を見据えた。差し出したのは一枚の名刺。

言われるがまま(なにがなんだか分からないまま)宿舎の外に出ると、タクシーが来ていた。何事かと通りかかった皆帆に問われたけれど私が何事か知りたかったぐらいなので答えることも出来ず、タクシーに乗り込むはめになる。数十分ほどタクシーで走り、下ろされた場所はなんとサッカー教会の前だった。すみません誰か説明お願いします。


「悪いな苗字、ここまで来て貰って」
「っ!?そ、その声は…!」


猫背になりかけていた背もシャキーン!とばかりに伸びるというもの。ま、まさかこんなところで…!期待に目が輝くのを自覚しながら振り返ると、あの豪炎寺修也さんが立っていた。ええと確か、聖帝スタイル…?ってやつだ。このタイミングでサインねだっちゃうのって流石にダメかなあ?



憧れのストライカー



(2013/11/09)