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目の前に立っているのは、人間ではないように思えた。声は相当に落ち着いているし、瞳は鋭利な光を放っている。……少年?そうとは思えない落ち着きっぷり。背丈は私と同じぐらいだ。なぜだか差し伸べられた手を無意識に握った後に立たされると、見たこともない髪の色、目の色、――肌の色に目を奪われた。そしてスタジアムに来るような服装では明らかに無いところが、彼の異様さを際立たせている。


「あの、どちら様…で?」
「……名乗る程の者ではない、と言っておこうか」


にやり、とした笑顔に思わず引きつった笑いを返していた。低い声に嫌な予感を感じたからだ。それに、恐ろしく強い力を感じ取って一歩下がろうとして…あ、そういえば背後壁だったなと思い返して再び苦笑い。どうしよう、逃げ出して何も見なかったことにしてしまいたい…!臆病な自分はそう訴えているのに、不思議と足は動かなかった。


「―――"地球代表"?」


自分の口がそう、ぽつりと呟くのを見て目の前の彼は更に口元をにやりと歪めた。「ああ、そうだ。このような辺鄙な惑星に足を運ぶのは何度も無いがな、予選の初日だ。仕方あるまい」手を後ろで組んで淡々と告げるその言葉の意味が分からないのは私がアホだからなわけではないと思う。「ま、そろそろ戻ろうと思っていたんだが…選手登録をされているというのに、こんな場所をうろついている危機感の無い女がいたのでつい、ね」言葉は丁寧だというのに刺々しいし、私を見る目の光を更に鋭くしている。要するに私は睨まれていた。う、うわ、なんだろう、抗えない!?

「えっと、すみません?」謝罪を要求されているように感じたので謝っておくと、不思議そうな顔をされた。「別に、私はこの星がどうなろうと興味は無いのでね」声色にまったく感情が篭っていないのでおそらく本気だろう。そうか、この星がどうなろうと……この星?この星、って事は単位は地球?で、代表は私"達"?


…………

………

……




―――いや、そんなSFちっくな事が起きていいのだろうか。うん、きっとジョークなんだジョーク。いや、まさかそんな、ね?……有り得ない、よー?


「では、せいぜい頑張っ――」
「待ってちょっと待ってお願いちょっ!?」


背を向けて手をひらひらと振るわけのわからない存在の腕めがけて飛びかって掴む。「…何だ?」うわあ嫌悪感で驚きを塗りつぶした顔してる!…と、そんな事はどうでもいいのだ。聞きたいことがとりあえず山ほどある。私この腕絶対離さない。


「や、これって、フットボールフロンティアで……世界大会、だよ!?」
「ああ、そういえばあの男には伏せるように言われたんだったか。…まあ良いだろう」
「いやいやいや今戦ってるのは韓国代表のファイアードラゴンで、」


「――地球人に擬態した異星人」



「………へ…?」
「地球の都合に合わせてやっているんだ。今日の対戦相手は…ああ、そもそも人の原型を取らなければ試合が出来ないし、丁度良かったんだろうな」
「いや、その、」



「これは宇宙規模のサッカー大会、"グランドセレスタ・ギャラクシー"の予選大会」



「………は?」
「全宇宙の生命の、生き残りを賭けたサッカー大会。……これで満足か」
「や、これ、なんの冗談……?」


何かのごっこ遊びに付き合わされているんじゃないの?冷静な頭はそう告げている。そう信じたかった。――普段の私なら、笑い飛ばしていただろう。冷静じゃいられなくなるような事があって、畳み掛けるようにそんな事を言われてしまったらそんなの……へたへたと座り込んでしまった私の腕は、掴んでいた目の前の存在の腕を離していた。ぱんぱん、と何かをはたく音は、私が掴んだ部分の服を払う目の前の男が出した音だろう。


「冗談だと思うのならば、自分の目で確かめてみては如何かな」
「………」
「では、また縁があれば会おう」


こつん、こつん――現れた時とはまったく違って、足音を響かせながら遠ざかっていく謎の存在。ふと顔を上げるともう廊下にその姿は無くて、私は狐に包まれたかのような気分だった。もしかして、白昼夢でも見たのだろうか。…見ていないのは自分が一番分かっている。

心臓に手をあてると嫌なぐらいにばくばくと鳴り響いている。全身は冷や汗で濡れていて、投げられた言葉がぐるぐると脳内を渦巻いていた。地球、代表。全宇宙の生命の、生き残りを賭けたサッカー大会……

にわかには信じられないけれど、ぴかぴかに磨きぬかれた廊下には、確かに二つ分の足跡があるのだ。



気まぐれで明かされた真実を疑う



(2013/09/22)

剣城君にフラグが立ってるからこっちにもフラグを…だめ?
そして掴めないオズロックさんの偽物臭が恐ろしいことに