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控え室を出る前に視界に映った、剣城の顔が驚きに染まっていたから思わず頭を抱えた。「やっちゃった……」多分、他のみんなも同じような顔をしていたと思う。

ショックは余りにも大きかった。――お金で雇われて世界へ、だなんて。私の必死の努力は、みんなの必死の努力はお金の力に押し潰されてしまったという事。当然神童や天馬君、剣城や葵ちゃんはこの事を知らなかったとは思うけれども。


――スタジアムから歓声が聞こえる。


試合が始まったんだろう。韓国戦、それなりに見るのを楽しみにしていた。雷門のみんなも応援に来ると言っていたから挨拶をしようとも思っていた。でも、今はまったくそんな気分になれない。監督にどういう事かと詰め寄る元気も失われてしまった。…泣きたいとは思わない。ただただ、虚しさが募るだけだ。さっきの財布の騒動も、そう。

チームの間で信頼が築けていないから疑ってしまう。大事な試合の前にそんなトラブルなんて……それすらも偶然じゃないように思えてしまうのは流石に考えすぎだろうか。ずきずきと痛むのは心も頭も同じで、誰もいないスタジアムの廊下を歩く足が自然と止まった。そのままずるずると壁に背を預けて座り込む。


「……なんのために、頑張ってたんだろ」


夢であって欲しい。悪い夢であったと、誰かに言って欲しいと切に思った。ずっと世界へ行くのを楽しみにしていたのに。体育座りで顔を伏せる。ワアアアア、とスタジアムから一際大きな歓声が響き渡るのが聞こえた。ホイッスルが聞こえてこないから、特典が動いたわけではないのだろう。どことなく安心を覚える。

しばらくスタジアムの歓声を聞きながらぼんやりとし、そろそろいじけるのはやめにしようと決断を下した。……決まってしまったものはしょうがないのだ。いつまでもこうしていたってしょうがない。たった30分間の前半が終わるのは早いのだ。葵ちゃんとみのりちゃんだけにマネージャー業を押し付けるわけにもいかない。


「行く、かあ……」


顔を上げると耳元に大きな歓声が響いているのが聞こえた。どんな顔をして監督と同じベンチに座ればいいのか分からないけれど、そうする以上に無いだろう。その場の勢いで帰るなんて言ってしまったが、本当に帰るのはただの勝手にならないのだから。私を見込んでくれたコーチにも失礼というものだし……頭ではグラウンドの脇のベンチに行かねばならない事を誰よりも知っているのに、足は動かない。あーあ、時間を巻戻せればいいのになんて考えながら再び腕の中に顔を埋めた、


――その時だった。






「……おや?地球代表の少女、試合に出なくとも良いのかな?」



人の気配なんて一切無かった廊下。足音ひとつ、響かなかった廊下。聞こえていたのはスタジアムの歓声と私の溜め息だけだったのに、声が響いた瞬間に私は顔を上げられなくなった。これでも人の気配には鋭い方だと思っていたのに…!声が聞こえた瞬間に目の前に唐突に"何か"の存在を感じて嫌な意味でぞくりと鳥肌が立つ。それに今、目の前の(声からしてきっと男、なのだろう)は何と言った?


「地球、代表…?」


恐る恐る顔を上げる。――至極愉快そうな笑みを称える、人に似た姿の"何者か"がいた。



心臓に悪い登場ですね



(2013/09/13)

普通に騙されてたので出してやった。後悔はしてない。
口調が合ってるかどうかなんて知らない!タイトルはアジア予選()が終わった瞬間に登場したアレに対しての率直な感想。