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『いよいよこの日がやって参りましたァ!』


沸き立つ歓声、熱い実況。大盛り上がりを見せるスタジアムの熱気に思わず目を細めて中央を見やる。――とうとう今日が、開幕の日だ。


「苗字先輩、なんだか元気無いですね?」
「そんなことないよ!ほら、私見てないで…いや見ててもいいのよ?見る?見たい?」
「手、手!動かしましょう!」
「ふふ、それで良しよ葵ちゃん(マイエンジェル)」
「……何か聞こえたような…?」


聞こえました?と問いかけてくるきょとんとした顔の葵ちゃんに悶えつつ、笑顔で首を振っておく。傍らに可愛い女の子がいるというだけでドリンクの下準備は絶好調。


「開幕式終わったらすぐにファイアードラゴンと対戦だよね?」
「そうですよ、タオルなんかも準備しなきゃ」
「みのりちゃんは?」
「監督と一緒に、どこか行っちゃいました」


葵ちゃんと雑談を交えながらマネージャー業に勤しむ。「寂しいねー」「ですねえ…」みのりちゃんともっと仲良くなりたいという思いを抱くのは私だけではないらしい。というか、会話をする機会に恵まれない。それは現時点ではさくらちゃんも好葉ちゃんも一緒なので個人的にはちょっぴり不満。……と、それは置いておいて。


「いよいよ世界かあ……」


感極まって、そんな事を呟いてしまう。グラウンドの中央に並び立つイナズマジャパンを、羨ましさと妬ましさと羨望と、期待を託した気持ちで見つめる。「……ねえ先輩、」「ん?」「向こうに並ばなくて良かったんですか?」振り向くと、静かな声で問いかけてきた葵ちゃんが私を見据えていた。うん、と小さく肯定の意を示すために頷く。「正規で選ばれたわけじゃないしさー」黒岩監督に認められなければ。あのグラウンドに立つ資格を、私はまだ得ていない。


「あ、開会式終わったみたいですね」
「私達も控え室行っとこうか」


立ち上がってほい、と葵ちゃんに手を差し出すときょとんと首をかしげられた。ああそんな無邪気な目も可愛いっ…!じゃなくて、「ほらドリンクのカゴ貸して」「え、でも」「女の子が遠慮しないの」口元を緩めると葵ちゃんが微かに赤くなったように見えてうっひょおおおなんて叫びだしたくなる。(そして、こんな時に先輩は女の子じゃないんですかと無粋な事を言うタイプではない葵ちゃんだから更に好感度が上がる)「はい貸して」「は、はい!…じゃあ、お言葉に甘えて」おい茜ちゃん、今すぐここに来てこの葵ちゃんの可愛い表情激写してくれたら私言い値で買うぞ!




嵐の前の和やかな時間

(先輩って素敵ですよね)
(やだ葵ちゃん、褒めても何も出ないよ!?)
(……ふふ、私苗字先輩が男の人だったら好きになっちゃってたかも)
(…………葵ちゃん反則…っ!)
(わ、ちょ!?鼻血っ!?)

(でも先輩、"変態さんじゃなかったら"です)
(ちくしょう知ってた!でもそんな葵ちゃんが好き!)

(2013/08/20)

今回のみ短め。