08


「おい樹、起きろ」
「……う?」
「起きろって。お前、本気でヤバそうなら家に帰った方が……」
「だれ…?」
「いや誰ってそりゃねえだろ…寝ぼけてねえで起きろ!」
「せやで、俺ベッド使いたいし」


あーここどこだっけ…目の前のあからさまにヤンキーなお方はなんでこんな私みたいな地味女のところに来てるんだろう?しかもすごく心配した顔で。…あれ?私この人最近見たような…あー樹の友達だ。友達の不良の人だ。でもいくら双子だからって私と樹を間違えたりなんて、

……樹?


「っわあああああ!?」
「は!?なんなんだいきなり!?うるっせえ!」
「っひ、響野、か…!」
「お前何寝ぼけてんだ」
「………寝かけてた」
「いや寝てただろ」


そんなことないです。決して寝てないです。寝てたとしたらそれは精神的な疲れによるものなのでとりあえず私は悪くないです!心の中でだけそう叫びながら体を起こすと、大丈夫そうじゃねーかと悪態をつく目つきの悪い不良さん。樹と仲の良い彼の名前は確か…「八乙女?」「…なんで疑問形なんだ」ひいいっ!睨まないで頂きたい!目線で何人か殺せそうじゃない!カツアゲの恐怖に怯えながらもあっはっはと笑いで場を和ませようとするが、じろりと睨まれて息を呑んだ。次いで目の前で舌打ちの音。どうしよう今すぐ帰りたい。心折れそう。なんで樹はこんな人と笑顔で接することが出来るの…


「樹が八乙女にビビるなんて珍しいやん」
「え、」
「まあ寝起きでコイツの顔は刺激強いやろうけど…っとっと」
「うるせえ!」


……うわあ、この人…えーと菅井さんだっけ。あんまりこの人は得意なタイプじゃないかもしれない。八乙女君が掴みかかろうとするのをひょいひょいと躱している姿を横目にするだけで、何故だか苦手意識がぐんぐんと上がっていく。香田君に言われた珍しいな、はなんてことなかったのに…彼から珍しいと言われると、酷く心が落ち着かない。

すぐにここから出て…ってああ!そういえば香田君だ!香田君が賢吾君を呼びに行ってくれるっていうからここで待ってたっていうのに…!ぎゃあぎゃあと騒ぐ二人を横目にちらちらと保健室の扉を見やる。「なんや、誰か待っとるん?」無視すんな!と騒ぐ八乙女君を躱しながらこちらに会話を振らないで頂きたい。「い、いや」そういうわけじゃねーけど、と返しつつも心は落ち着かないままだ。ううう香田君!まだ!?まだなの!?


「おい……っ、樹!じゃない何事だ!?」
「なあ四季お前足早すぎじゃね…ってうるせえな!」


キター!と叫びだしたいところだが一瞬ひやりとした。八乙女君と菅井さんの動きが止まる。こちらを見てほっとした表情を浮かべる賢吾君あなた、今一瞬私の本名呼ぼうとしたよね?心臓に悪いからやめて欲しい。あと香田君には感謝が尽きない。ありがとう本当にありがとう。この調子だと賢吾君より信頼を寄せてしまいそうだ。


**


「…すまなかったな、迷惑をかけた」
「謝って済むんなら警察はいらないと思うんですよ賢吾君」


本当に酷い日だった。主にぐるぐる巻きにされたのが酷い思い出だった。まさか由利君がいるなんて…彼の樹への恨みを私が受けるかもしれなかったかと思うととても恐ろしい。気まずそうな賢吾君を睨むとすっと目を逸らされた。唯一和んだと言えば香田君に助けられたことぐらいですよ?賢吾君私ほったらかしてたけどね?

男子校に潜り込むというのに対してそれなりの覚悟はしていたわけだが、ここまで気苦労があるなんて思わなかったのだ。思わず溜め息を吐くと本当にすまない、と賢吾君が繰り返したから顔を上げた。「本当にもう!私に二度と…ん?」賢吾君、なんで私に携帯の画面差し出してるんです?えっ何、見ろってこと?思わず首をかしげながら画面を覗き込むと、そこにはソファーでだらしない格好で眠りこける部屋着の私の写真が。


「〜〜〜っ!?〜〜〜っ!?け、けん!?」
「すまないが…しかし頼れるのはお前だけなんだ!
「言葉と行動が一致してない!」
「樹が切り札に使えと昨日の夜…」
「わーっ!わーっ!もうやめて!?お願いだからっ!来るから!」
「言ったな?」
「………うううう!」


きらりとメガネが光ったのは気のせいではないだろう。「…とりあえず、今日はもう帰るからね」まともな練習も出来ていないが、その辺はきちんと明日までに考慮してもらうことにする。「分かった。なら俺も帰ろう」「いやいや流石にそれはダメだって!」

兎にも角にも、本番は明日からだ。今日以上に気合を入れてしっかりしないと!



(2013/03/08)

一日目終了時点での遭遇キャラ

:四季、菅井、八乙女、綾乃、太尊、由利、アリス、セヴァ、香田
宍戸と御空は会話をしていないのでノーカウント。次から二日目です。