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「おや、これは苗字先輩。一体何の遊びですか?」
「もしかしてそれ裁縫セットか!悪い頼む、それ、ハサミ入ってるだろ?この縄どうにかしてくれ!」


反射的になんでもするから!と叫ぶと、目の前に現れた細目の綺麗な男の子の目がぎらりと光った気がした。「その言葉、忘れませんからね?」「分かったから早く!」「それでは…よく分かりませんけれど」じょきん、と断ち鋏に切られたロープが地面に落ちた。


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「助かったよ、ありがとう」
「いえ、構いません。――その代わり、先程の言葉をお忘れにならないようお願いします」


なんだろう、とてつもなく嫌な予感がする…!私(というか樹)の事を知っていた彼はどうやら二年生らしく、にこにこと笑顔でそんな事を言う。名前を知らない私はボロを出さないようにするので精一杯だ。「そうだ、ところで苗字先輩」「な、なんだ?」


「アリスがどこに居るか知りません?」
「いや別にあれは変な遊びじゃ…………アリス?」


あ、縄の事聞かれるのかと思ったら違った。ええと、アリス、アリス……「有栖?」「ええ。逃げられてしまったので必死に探しているんです」僕としたことが見失ってしまって…と心底悔しそうに拳を握り締め唇を引き結ぶ…ええと、なんだろう。見た目がなんとなく執事っぽいからセバスチャンのセバ君(仮)とでも呼ぼうか。セバ君(仮)はどうやら先程の天使のような少年を探しているっぽかった。

……うん?探している?あの有栖って子、明らかに切羽詰まった表情で逃げてた、よな…!?一体何をされようとしていたのか気になるところである。そっとセバ君(仮)を振り返ってみると何故だろう、彼は明らかに女性もののフリフリ衣装を手にしていた。「やっと、やっと完成したというのに…!」………あー、もしかして、ああうん、悟った。


「俺はまだ見てないな、今日は」


あれだけ嫌がってたんだったらそんなの、男の子よりも男の子(天使)の味方をしてしまうに決まっている。要するに女装させられそうで逃げてたんですね分かります。ああでも、滅茶苦茶似合いそう。違和感が仕事放棄して裸足で逃げ出すレベルだと思うよ。しかもクオリティのかなり高いお洋服である。女子力の塊。私…には似合わないだろうなあと思いつつセバ君(仮)を振り返ると彼は既にそこにはいなかった。ふと遠くを見るとアリスー!と遠くから呼び声が聞こえる。い、一瞬で用無しになったな私!




(2013/11/05)