04


現状を説明致しましょう。


「どうです、動けないですけど」


1.道を聞こうとしたら顔の整った男の子に捕獲された。2.彼は昔馴染みの後輩だった。3.昔馴染みは双子の兄にかなーりの恨みを持っている。4.結果、兄と入れ替わっている私ががんじがらめ。おまけに正座。背中には樹に懐いているのであろう太尊君。

腕を動かそうにも動かせない。冗談抜きで鮮やか過ぎる縄使いでした本当にありがとうございました!何に使ってるのか知りたいが少し考えると嫌な発想しか出てこないのでもう何も言わない事にした。しかし早く抜け出さないと本当にやばい。由利君は昔から少しアホな面があったけど実質、かなり鋭い部分もあるのだ。バレたら一刻の終わりである。


「な、なあ、黙ってくれっていうのは…」
「無理っス」


即答。必死で体を揺らすもビクともしない縄に大声で叫びたくなる。「俺まだ死にたくない!」「そうですか」あ、この子まったく興味無ぇって顔してやがるくっそおおおお!「お、俺先輩なんだけど!」「樹さんが先輩に見えた日なんて無いですよ」あっ地味に酷く言われてるよ樹…「先輩っていうより、タメみたいな感じっすよね」太尊君、それ褒めてるの貶してるの?「あ、勿論フレンドリーで話しやすいって意味で!」ああ、そんな慌てたように付け足さなくても。――とりあえず樹のコミュ力は痛い程に理解出来ました。ごちそうさまです。

演技だから普段めったに離さない"男の子"と会話出来ているだけの私と違って樹は本当に人望があるなあと思う。「あれ、抵抗しないんですか」「…まあ、大人しく料理されるってのは嫌だけど」抜け出せる術も持ち合わせていないのでもうどうにもなりはしない。人よりも良い耳が遠くからばたばたと人が走ってくる音を聞き取っていた。せめて樹の代わりに由利君に謝っておこう。あわよくば隙を見て逃げよう。うんそうしよう。「なんだか今日の樹さん、やけに物分り良いっすね」「うるさい」樹は言っておくけどこんな従順じゃないからね?


「あ、」
「どうした太尊」
「誰かが走ってきてません?」


ここでようやく二人も気がついたらしい。あああ処刑の時が迫ります今までありがとう賢悟君…守るって言ってくれていたのに守ってくれなかったことを盛大に呪ってやると恨みがましく出来る幼馴染へ想いを馳せていると、ばあん!と音が響いた。荒い息遣いと共に教室のドアが開け放たれる。




「たっ、助けてくれ!」
「……有栖?」


―――由利君ではない。

背の低い、目がぱっちりとした美少女と見まごうような美少年。髪の毛はふわふわで柔らかそうで、思わず可愛いと漏らしそうになったのは素だ。アリス、とメッシュ君の呟きに彼を二度見。まるで天使のような姿をしているなあと思っていると、アリス君がこちらを向いた。あ、正面から見るとますます天使っぷりが凄い。そんな私の傍ら彼は私を目に入れて驚いたような顔をした。あ、そうか。私今縛られてるのか。


「…………」
「…………」
「……………悪い、僕は何でも―――」


数秒間見つめ合うと、ふっと私から目を逸らしたアリス君は明らかに逃げようとしていらっしゃった。ああうん、危ない遊びなんてしてないんだけど誤解されたようです。天使におかしなものを見るような目で見つめられるというのは結構なダメージでありショックでありああああああ!と叫びそうになっているとアリス君の言葉が途絶えた。「ひっ、あ、あれは…!?」「"あれ"?」驚愕に顔を染めて廊下の向こうを指差すアリス君。同時に何やら先程よりも怒気を孕んだ(ような雰囲気の)足音が響いてきた。あ、まさか、今度こそ死亡フラグ?


「樹ィィィィィっ!」
「ひいいいいいい由利君んんんんんん!?」
「誰が由利君だ誰が!」


鬼!?あれ鬼!?思わず素が反応したが不自然に思われなかったのは多分、由利君の頭に血が登っていたからだろう。やばいやばい死ぬ、嫌だまだ生きたい!生きねば、私は生きねばならんのだ!ああもう、どうして大人しくしてなかったんだか!賢悟君都合よく助けに来てくれたりしないんですかね!ずかずかと入口でアリス君を押しのけ私に迫ってくる由利君に怯えながら頭の中で思いっきり賢悟君の名前を叫ぶ。――効果があったのか、無かったのか。



「おい、そこで騒いでるのは誰だ!?」
「げっ生活指導…!」


騒ぎの音が響いていたのだろう。教師と思われる男の人の声が響いて全員の視線が廊下に集中した。―――もしかしてチャンス?あっ神様ありがとう私このチャンス無駄にしない事にする!「悪ィ太尊!」「へ、あ、樹さんっ!?」首に手を回していた太尊君の腕の力が緩まっていたのを良い事に年下の男の子を突き飛ばす私。最低と言われようがこんなところで息絶えるなんてお断りである。無念で地縛霊にでもなってしまいそうなんだもの。後で何か彼におごってあげようと決意しながら胴体をぐるぐる巻にされたまま飛び上る。由利君始めその場の全員が驚いたような顔をした。運動神経は悪くないんだよ私!ぼっちから抜け出そうとしたから!ほら運動出来ると友達出来るみたいな!結局友達いないけどねちくしょー!


「ぐっばい!」
「……は?って、ぐっばい、じゃない!」


由利君の憤慨する声がこらあああ!と叫ぶ声に重なった。とんずら成功だぜやったね!偉い人は言いました。逃げるが勝ちと。あああとにかくこの縄なんとかしないと…!


(2013/10/23)