吹き飛ばされたレイニーブルー
※隠しきれない偽物臭
※29巻を読んだ勢いのみ


その日は丁度雨だった。教室の窓から見上げた空は薄暗くて、思わず顔をしかめずにはいられない。予報では降水確率20%、だなんて言っていたから信じてきたのに…!お天気お姉さんを心の隅で恨みつつ、自らの鞄を振り返った。折りたたみ傘は入っていない。

もう授業はとっくに終わっていて、誰かの傘に入れて貰うという事も出来そうにない。本当にツイていない日だ。掃除当番を押し付けられたと思ったら雨…苛々半分、不安半分。家は学校からそれなりの距離。迎えに来て貰う?……むしろ迎えに来てくれと言われそうだ。


**


とりあえずは教室に居てもしょうがないので昇降口にまで降りてくると、雨はたったの数分でざあざあと荒っぽく降り注いでいた。雷の気配は無いのが救いだろう。雨の日独特の香りが鼻をつんと刺激した。振り返ると誰かの置き忘れだろうか、傘が一本だけ傘立てに突っ込んであるのが見えた。誰のだろう?いらないのなら是非借りたい、そう思ったところでばたばたと階段から誰かが駆け下りてくる音が聞こえた。


「げッ、仗助ェ!雨降ってやがるぜ!」
「億泰……おめえが今日は雨が降るっつってたんじゃねェかよォ」
「って事は仗助くん、」
「おめえらと相合傘かよォ…色気もへったくれもありゃしねェ」


ことん、と傘が傘立てから引き抜かれる音がした。仗助…「あ、」同じクラスの、東方仗助君の声だ。身長がとても高くて、ヘアースタイルも相まって見た目は不良なのに気さくて目元が優しいの、と良く女の子達が騒いでいる。(私はなんとなくそれを常に遠巻きに見守っているだけだ。関わり合いを持つのは少し怖い)つまりハンサムボーイな人気者で、私とはあまり縁のないタイプだ。

ぱたぱたと足音が再び響いて、大きめの黒い傘を持った東方君が昇降口から出てきた。続いてこれまた不良な見た目の少年(確か、クラスは違うけどとても目立っている…そうだ、確か虹村君だ)と、もう一人……誰だろう?二人と一緒なのがアンバランスな背丈の、至って普通に見える少年が出てきた。何事か喋りながら傘を広げる姿がなんだかとても微笑ましい。ちぐはぐなようで、それでいて妙にしっくり来る三人組だなあ。


「ん?」
「あ、」


―――目が合った。

「どうした仗助よォ」「いや……あいつが」指を差されている気配を感じる。しまった…!なんだかほのぼのしているから思わず見入った結果、完全に訝しげな目線を向けられているのである。これはいたたまれない。今すぐこの場から立ち去りたいが、雨は一層強くざあざあと降っていて、私は傘を持っていなくて――せめてもう少し落ち着きさえすれば家まで走るという選択肢も生まれるのだけど、ってうわああ睨まれてる!?すごく怪しまれてる!思わず挙動不審に周囲を見渡すも当然何もない。ど、どうすればいいんだろう。「は、はは…」苦笑いを浮かべることしか出来ない私にますます目を細める三人。う、胃が痛い…!いえその、ちょっとした出来心でして、


「ああ!アンタ、同じクラスの……苗字!」
「え、」
「もしかして傘持ってないんスか」


思わず真顔に戻っていた。――名前、覚えられてる。その事に何故だかどきりと鳴る心臓を思わず抑えた。「う、うん」同い年だというのに丁寧な口調で問いかけられた質問に思わず頷いていると、東方君は手に持っていた傘を片手にううん、と唸りはじめたのである。何をそんなに…………え、まさか無い、よね?いやまさか!東方君はヘアースタイルに並々ならぬ拘りを持っていると聞いている。髪型を馬鹿にされるとキレてしまうのは周知の事実だ。今度は私が東方君に訝しげな目線を向ける番だった。しばらくして、東方君が顔を上げる。つかつかと歩み寄ってきて、そして。


「使って良いっスよ」


――差し出された傘に、思わず呆けていた。

それは私だけではなく、彼の背後の二人も同様だった。いや、だって、…有り得ない。「でも、東方君」見上げなければならないぐらいに彼は大きい。「…髪の毛、崩れちゃうよ…?」恐る恐る問いかけると、少し困ったような笑顔が返ってきた。「明日アンタが風邪引くのも後味悪ィし」ほら使え、とでも言うように押し付けられる傘。思わずそれを受け取ってしまうと今度はぐしゃぐしゃと髪の毛を掻き回された。一体どういうことなの。その行動の意味は何、何なんですか東方君!髪の毛じゃなくて頭も心もわけがわからなくてぐしゃぐしゃだ。唯一心臓はばくばくと聞こえそうなぐらいに大きな音を立てている。雨のせいで肌寒いはずなのに、顔が熱いのは何故だろう。

我に返って顔を上げた時には既に、大きな手のひらは頭の上には無かった。「ほら帰ンぞ億泰、康一」「え、え、」「お、おう…」既に虹村君達のところに戻って、鞄を頭の上に構えた東方君に促される二人。腑に落ちないと言いたげな目線が私の目線とぶつかった。――本当に良いのだろうか。…そうだお礼、お礼を…!「あの、東方君!」声を発したその時には既に、三人は雨の中に走り出していた。顔だけくるりと振り返った東方君に叫ぶ。


「えっと、ありがとう!」


既に走り出していた東方君がひょい、と片手を上げてくれるのが見えた。また明日、と聞こえたのは幻聴ではない。彼が人気を博しているのも分かる気がした。――ずるい、こんなの、好きになれと言っているようなものじゃないか。



吹き飛ばされたレイニーブルー

(もう君しか考えられない)

(2013/10/03)
...Rosy note様

すいませんでした
あり得なさそうだと思いつつ、仗助君が既に夢主に片思いしてて、気恥ずかしかったから名前を今思い出した!みたいに言って傘貸すのとかいいなって思ってつい