01
(一日目)


多分、明らかに選択肢ミス。ただでさえ大きくない胸は抑えずとも服で隠れた。樹の制服は少しぶかぶかだ。ほとんど背の高さも体型も一緒だと思っていたのに、やはり双子と言えど片割れは男の子だったらしい。

玄関を出ると賢悟君がいて、「いつ…名前、本当にすまないな」と謝ってきた。一瞬だけとはいえ長年の付き合いがある幼馴染を騙せた事に素で驚いてるよ私。「まあ、約束しちゃったし…でもなんで男装?」昨日ははぐらかされてしまった問いかけを賢悟君に投げてみると、すっと目を逸らされた。


「女子が一緒に練習するってだけで練習にならない奴らが多くてな…」
「や、いくら男子校でもそんなに女子は貴重じゃあないでしょう?彼女が居る人とかいるだろうし」
「……………」
「何で黙り込むの賢悟くーん!?」


**


校内を案内されつつ教わることは多かった。まず私自身もだが、樹は三年生。だというのにコミュニケーションが苦手な私と違って人と関わるのが大好きな樹はフレンドリーで友人も多い。吹奏楽部とは賢悟君との繋がりもあって、面識のある人が多いという。

それから声。いくら双子で声質が似ているからといっても、私と樹は性別というとても大きな壁で隔たれている。(見た目や体型が似ていることについてはもうご都合設定ですね、としか言い様がないので何も言わない。気にしたら負けな気がする)背だって樹より私は少しだけだけれど低いし、やはり声だって男の子特有のあの低さは出せない。が、ご都合…げふん!運の良い事に樹は男の子にしては声は高い方なのである。そして私達は家族というのもあって、声を真似するのは以外にも容易かった。

正直今回の入れ替わり作戦を樹が思いついたのも、私があまり失敗すると思っていないのも、何度かこれらを体験しているからだ。幼稚園では制服が一緒だったし、髪の毛さえ少し母さんにいじってもらえば(母さんは見分けがつくからすぐにバレるだろうと思っていたらしいけど)賢悟君以外には誰にもばれずにいられたのである、ああ、懐かしいな…人見知りな自分を変えたくて何度か樹と入れ替わって、はっちゃけたあの日々…小学校でも二回ぐらい入れ替わったんだっけ。大体いつも賢悟君に見つかって先生に怒られて、というのがお決まりだったなあ。


「……で、ここが部室だ」
「えっ嘘もふぐ!」


過去を振り返っているといつの間にか部室の前だったらしく、素っ頓狂な声を出しそうになった瞬間賢悟君に口を塞がれた。「気をつけろ、今はもう苗字樹なんだからな?」「っ、う、うん…じゃない、」ごほんごほん、と何度か咳払いする。「ああ…賢悟」これでいい?と賢悟君を見上げると目を輝かせていた。「完璧だ!」「やった!」二人して思わずハイタッチ。今の声は我ながら完璧だった…!「じゃあ行くぞ!」「あ、それはちょっとまだ心の準備が、」

――引き止める手は数拍遅く、


「はい注目ー!今度の演奏会でピアノ伴奏を担当してくれることになった苗字だ!」


ざわつく音楽室に入って行った賢悟君がほら早く入って来い、と手招きしているのが本気でつらい。どうしよう、まだ心の準備が出来てないから入りたくなくて、








「あ゛?樹じゃねえか」
「ほんまや。何やっとんのやこんなとこで」



ぽん、と肩に手を置かれて心臓が飛び跳ねた。――な、何度か聞いたことあるこの声…!そうだ、時々朝樹と一緒に登校してる、確か…


「菅井…と、矢乙女?」
「ンで疑問形なんだよ」


――ヤンキーの人だあああ!!あとなんか怖い人だ!タバコ吸ってたの覚えてるぞ!?いやああああ神様助けて私多分無理!やってけない絶対無理!




(2013/09/27)