君を縛る一つの呪い


「そういえば、ナマエには兄弟とか、いるのか」


イル・ラビリンスを進む道中、ふとクオードから投げられたその問いにナマエは一瞬、動きを止めた。チェスの駒を集めるなかで、クオードとメレアーデの仲の良さ、クオードがいかにメレアーデを大切に想っているかを知り、今は会うことの出来ない兄弟に思いを馳せている最中だったからだ。問いを投げたクオードはそんな私の心情など知り得もしないだろうに、とナマエは思わず目を丸くする。


――本当は、泣きたくなるぐらい、嬉しかった。

ナマエの中で今、一番強く残っている兄弟の記憶はその言葉と、残されたキューブのたったひとつだ。キュルルにはまた日を改めて、兄弟と過ごした日々のことを聞かねばと思ってはいるものの、過去の世界に飛び、メレアーデ達と出会い、終末の光景を目にしてしまったことで、何だかんだとそのタイミングは逃してしまっている。



「兄さんがね、いるよ」
「へえ、逆だな」
「今は会えないんだけどね」
「……」
「死んでないよ、ちゃんと生きてる。ただちょっと、私達は特殊というか」


そもそもこの時代の人間ではないことを、話たって信じてもらうのは難しいだろう。打ち明けているのはメレアーデ一人だし、そのメレアーデにも信じてもらえているか分からないうえ、ラフな格好をしたメレアーデは彼女自身もこの時代のメレアーデと違うような気さえする。クオードにどう説明したものか分からず、ナマエはどうしようもなくなり困ったように笑ってみせた。「会えないのはすごく寂しいから、…だからクオードがメレアーデを心配する気持ちも、すごく分かるつもり」「…そうか」廊下に散った絵具を踏まないように足を上げ、クオードの質問を間違えたな、というトーンの声は聞かなかったことにした。だってナマエは、兄弟のことを聞かれて嬉しかったからだ。まだナマエとクオードの関係性の中では、それは言葉にしないと伝わらない感情なのだけれど。


「うちの兄さん、錬金術師なの」
「…初耳だぞ。名前は?」
「知らないと思う。でも多分、この世界の誰よりも、過去と未来全ての世界で、一番の錬金術師だよ」
「やけに自信があるんだな」
「でもそんな兄さんも、小さい時は…ハツラツ豆っていう、豆があるんだけど…それ増やそうとして、全部焦がしたり。お花のついた帽子つくったり、そんなのだったなあ…懐かしい」
「今はどこの国で?」
「どこの国にも属してないよ。やるべきことのために、ずっと旅をしてる」
「だから会えないのか」
「寂しくないって言ったら嘘になるけど、それ以上に自慢の兄弟だし、」


――きっとまた会えると、約束してくれたから、信じて突き進むだけ。


ナマエはそっとポケットのエテーネルキューブに触れた。布越しでも安心を与えてくれる冷たさと、キュルルの戸惑いの声が聞こえた気がした。そんなナマエをまじまじと見つめたクオードの中では、ナマエの印象は随分と変わったらしい。聞かなければよかったかという雰囲気は消え去り、クオードは強い光を湛えた瞳でナマエの瞳を視線で射抜いた。どうしたの、クオード。今度は逆にナマエが、少し雰囲気の変わったクオードに戸惑う。


「あの偽物のねえさんにナマエと親友だなんて言われた時は、何を狂ったことをと思ったが」
「クオードに"ナマエちゃん"って呼ばれた時の方が焦ったけど」
「今はそれはいいだろ!…ああもう、やっぱりなんでもない!」
「私達、ちょっと似てると思ったとか」
「……心でも読めるのか」
「同じこと、考えたから」


弟と妹。姉と兄。唯一の肉親を大切にしているという以上にも、どことなく通じ合えるものがある。クオードには正体の分からないそのルーツに、ナマエはなんとなく、気が付いている。エテーネ王国滅びの運命さえなければきっと、ナマエはクオードとメレアーデを従姉弟として見ていただろうし、面倒見のいい姉弟に良い関係を貰い、育つことになったのだろう。出会う運命になかった親族に出会えたのも、滅びの終末が齎した縁のひとつだというのであれば、この世界での旅を大切な思い出として心のうちに残しておけるだろう。


20180107/すいせい

Ver.4.0姉弟と姉妹クラスタに優しすぎしんどい
エテーネの時渡りの力というか、過去に介入する、が11の過ぎ去りし時を求めた時と重なります。3の前、というより3の別時間軸の11ってイメージなのですが、11主も、3主が継いでいる勇者の血も、大元は同じなわけだから、歴代主人公に受け継がれてきた「不可能を可能にする勇者の力」は時を超える力として、10まで受け継がれてきたのかなとか。7主が、石板を集めることになったのもやっぱり絶対に運命だと思うし、永い時間を掛けて受け継がれてきたものは尊いなあとしみじみしてます自己解釈ですが…9主と10主のあいだにはおそらく血縁があるだろう(9主の子孫10主解釈なので)と思っているので、9主も天使だったけど何らかのきっかけ、おそらくはグレイナルをきっかけに時の王者と呼ばれるようになったわけだし、時の王者として時間を越えてアストルティアに骨を埋めたわけだし、その力を持っていたということなんだろうなみたいな。でもなんやかんや歴代絶対、どこかの町で過去に遡ったりしてるイメージあるし、「主人公が変えたいと思ったから変わる」っていうのはやはりどの主人公も受け継がれてきた今10で時渡りの力って名付けられたものを、無意識的に発動していたのかな、それで世界は救われてきたのかなとか考えちゃいます。ぱっと思いつくのは4主の世界樹の花を使う選択とか。5主のオーブを求めて過去へゆくところとか。6主の上下世界を行き来するのもそれっぽい。天空めっちゃやりたい…