ナダイアとちいさな解放者


「ナダイア様、届け物にございます」


傍仕えの声から一拍遅れて、机上に何かが置かれる音。振り向いた神官長の目にはそれが、見たことのない素材で形成された箱だということしか分からなかった。茶色く。軽そうなその素材は炎の領界で作られることはまず、無いであろう。ということはこの届け物は異世界の人間、つまり解放者からである可能性が高い。

今度は物資で心を揺らがしに来たのかと、ナダイアは思わず頭を抱えた。好きです、だの愛しています、だのの言葉では、自分と年の離れた竜族の男の心を大きく変えることは出来ないとようやく悟ったのはいい。悟ったならば諦めるべきではないのかと、ナダイアは頭を抱えて天井を仰ぐ。―…種族の差が云々の前に、年齢が離れすぎているのだ。教団の廊下ですれ違うたびに飛びついてきて、大好きです、愛していますと好意を示されても、誠実な言葉すら返すのを躊躇う。生きてきた歳月の差は、単純な言葉では埋められない。


「…開けてくれ」
「御意」


箱の封を剥がしていく、部下の姿を黙って見守る。開けたその中から自分の命を狙う、劇薬でも出てきた方がどんなに心が楽だろうか。腰に回される腕の細さや、背中に埋められた小さな不安の言葉や、自分だけが知っている解放者の涙のことを、無かったことにしてしまえるならどれだけいいだろうか。小さな体の中に流れた時間は、どれほどの密度を以っていたのか。受け止めてやりたいと思うのは事実、受け止めきれないであろうも事実。好きですと彼女の言葉を認識するたび、幼さ故の勘違いではないかと諭すたび、背負うものの大きさを痛感している。


「…菓子、でしょうか」
「異世界のか。……さて、どうするか」
「ナダイア様をあのように慕う少女からの贈り物を、捨てるわけにはいかないでしょう」
「しかし、受け取るわけにもいかない」
「受け取って差し上げればよいでしょう。それとも親子のように歳が離れていることが、それほどまでに気になるのでしょうか」
「…気にならないはずがない」
「彼女も、周囲も、気にしませんよ」
「父親のように慕われているということにしておけ」
「……お望みであれば、そのように」


20161025

ナダイア様と幼女10主。ナダイア様だいすき!だいすき!な幼女とどうしたらいいのか分からないナダイア様。3.4クリア後に一瞬で没になったので供養です。
ちなみに幼女主(調理)からのスタースイーツ詰め合わせという設定。おっさん×幼女がすきです