バジネヅと解放者


「…また来たのか」
「バジネヅさんに会いたくて」


へらりと笑ったその少女は、門の前に立つバジネヅの横に座り込んだ。「毎回、飽きないな」「うん、飽きる気がしない」バジネヅさんが好きだもん、と笑うその少女の四肢は透けているわけもなく、血と生気の通う生きる者のそれだ。奈落から常世までを繋ぐこの空間に、たびたび現れバジネヅの横に座り込む、少女の名をナマエという。


「それでね、バジネヅさん。今日の私はカーラモーラの帰りなのです」
「闇の領界か」
「久しぶりに、兄弟に会ったのです」
「…兄弟?」
「それで自分の心がどこにあるか分からなくなったので、バジネヅさんに会いたくなりました」


へらりとした口元、困ったような顔の瞳の深淵には色がない。「…バジネヅさんに、会いたくて。撫でてもらえたらいいなあって、思っちゃったり」無理だと分かっているくせに、ナマエはそんなことを言うのだ。普段は気丈で掴みどころのない解放者にも、精神の限界はあるということか。目を閉じたバジネヅは触れられないと知りつつもナマエの頭に手を伸ばした。それだけで十二分に嬉しそうな顔をするナマエの髪をすり抜け、ハジネヅの腕は空を切った。


20160629