テリーと殺されたいパラディン




うざったい女だった。前に出たがりだった。

パラディンだと、自らの巨大な盾を誇らしげに見せつけていた。剣も魔法も槍さえも通さない分厚い巨大な、精霊の加護を受けし盾。どんなものからも守ってみせると、自信満々に胸を張った。パラディンは精霊の加護を受けていると言った。自身とレック、それからバーバラとチャモロにしか見えない精霊の声に耳を傾け、あれやこれやと俺に指示を出してきた。うざったい、うざったい!連携がなんだ。俺は一人でも戦える。そもそも仲間に入ったからって、姉さんがそう言ったからだ。助けられた恩は確かにあるが、お前の言うことを全て聞かなければいけない理由なんてどこにある?別に怪我したって、お前に迷惑を掛けるわけじゃない。俺が薬草を食べるなり、刻んで薬と塗りこむなり、姉さんやチャモロに回復呪文でなんとかして貰えばいいだけの話だ。別にお前に回復呪文を頼んでるわけじゃない。

もうお前の説教は聞き飽きたんだ。俺に関わるな世話を焼くな。守るだけしか脳がない、傷付ける度胸もないやつが偉そうに言うな。「傷付ける度胸がないって、なに」でかい盾で動き回ってるだけだろ、いつも。正直邪魔なんだよ。「でもねテリー、死んだらなにもかもおしまいなんだよ」死なない。攻撃を受ける前に殺すからだ。邪魔なものはいつもな。「ふーん…」お前も邪魔だ。なるべく視界に入ってくるな。「邪魔かあ。そっか」ああ、邪魔だ。邪魔だって何回言ったか覚えていないぐらいにはな。「じゃあどうして、私は殺さないの?」……は?

「邪魔なものは攻撃を受ける前に殺すんでしょう?」……お前、「私のお説教はテリーにとって攻撃でしょ?だったらうるさい口は殺して塞げばいいのに」…あのな、「正直すごく不思議だよ。どうしてテリーは私に邪魔だって言うのに殺さないの?私、すごくうっとうしくしてるのに」俺は人間だ。魔物はともかく、人間を殺すのは躊躇うだろ。「じゃあ私が魔物だったら、テリーは私を殺すのね?」……どうしてそうなるんだ。


「私、テリーに殺して欲しいの」


疎ましい女はそう言って、目を逸らしたいのに逸らせない笑顔で、荒んだ目元を隠すように笑う。「好きな人の手で終わりたいって思わせてくれたもの!、私なかなか死なないのよね。ほら、守るのは得意だから。しかも私パラディン向いてるみたいだし、…でもテリーなら殺してくれそう。ねえテリー、好き。あなたが好きだから…私テリーに殺されたいなあ」歪んだ口と、地面に放り出された盾。ナマエから目が離せない。最初から狂っていたのか、それとも俺を見ているうちにこいつは狂っていたのか。どちらにせよ回らない頭が理解したのは、殺してと小さく囁くナマエの表情はやけに艶めいていて、キスをしたい衝動に駆られるということだけだった。





(2015/06/02)