DQ4誕2015





「ナマエ」
「んー?」
「今日、ナマエの誕生日だね」


ふわり、と頭に乗せられた花冠に手を伸ばした。優しくて、甘いシンシアの香りにその花の香りは酷似していたから……無償に怖くなってシンシアの手を少しだけ、ほんの少しだけ強く握ったのだ。空の青さも、太陽の光も、真っ白な雲も、目の前のシンシアに比べたら失うことを怖く思わない気がした。なあに、と不思議そうな顔で覗き込んでくるエルフの瞳。ありがとう、と動かした口からきちんと声は出たのだろうか。分からないけれどシンシアが嬉しそうに笑うから、もうどうでもよくなった。

気恥ずかしさはない。

純粋な喜びと、穏やかな気持ちと、ほんの少しの焦り。見えない何かに怯えている自分自身を誤魔化すように、シンシアの手を握り直した。そっと握り返された手は自分のよりも小さくて、それを誰よりもよく知っているのは自分だった。…守ってやれなかった、自分に生きている価値を見いだせなかったあの日。

瞬きをした次の瞬間、シンシアの姿は無くなっている。風に舞う花びらが、繋いでいたはずの手元に羽根帽子をそっと下ろした。強くそれを握り締めて、ゆっくりと"目を開ける"。




「……おはよう、シンシア」
「あら、今日はお寝坊さんじゃないの?」


夢の中と同じように、優しく微笑んだシンシアを手招きする。なあに、と歩み寄ってきたシンシアをそっと抱きしめた。未だ自分よりも小さな体は、確かに心臓の鼓動を響かせている。







(2015/02/11)

25周年…おめでとうみんな。おめでとう4主。
シンシアと二人、仲間と強く生きてそして幸せになってください。