アストルティアナイト総選挙:ヒューザ




「やっほーヒューザ!」
「……うげ」
「うわ酷い!せっかく久しぶりに会ったのに、そんな声出さないでよ」
「…なんでこんなところに居るんだ」
「それはこっちのセリフなんだけど…」


苦笑いをするナマエに思わず黙り込んだ。「…だってヒューザがまさか、ねえ…」そりゃあ格好いいってのは認めるけど、と恥ずかしそうでもなくさらりと言い切ったナマエを睨む。ここはアストルティアナイトの総選挙会場であり、まさかこんなところでナマエと再会出来ると思っていなかった俺は内心非常に混乱していた。なんでこいつここにいるんだよ…!俺の無言の問いかけに気がついたのか、ふっふーん!なんて得意気にするナマエ。


「私は当然、選ばれしイケメンを見に来ただけだよ!」
「いや得意気にするところじゃねえぞそれ」
「でも初っ端からヒューザが出てくるから全部もってかれた感じがする」
「……俺は頼まれたから来てやっただけだ」
「きゃー子猫は助けちゃう無類のイケメン剣士さーん!」
「………」
「…オーケー分かった私が悪かったからかいすぎた」


剣を収めるとナマエがほっと息をついた。「そういえばヒューザはどのクッキーを集めてるの?」その言葉に思わず目を見開く。「俺に入れる気か?」「うん。この中で一番よく知ってるし」……驚いた。明日は氷雨でも降るのではなかろうか。俺の常に一歩手前を走っていたナマエが、俺のために動くというその言葉に驚きを隠せなかった。当然表情にも出ていたのだろう。私からのクッキーはいらないの、と言い出すナマエにそういうわけじゃねえ!と返すとニヤニヤとした笑顔が返ってくる。

探しているクッキーの名前を伝えると、任せてとナマエが言い切った。会場の外へ出ていったナマエは一体どこへ向かうのだろうか。正直俺含めここの参加者全員はクッキーの出処を知らないのだが、(詳しく言えばなんとなくの範囲で入手方法は知っているが)彼女らはどこから手に入れてくるのだろう。…クッキーを手渡しにきてくれるヤツの中には怪我を負っていたやつもいたし……思わずナマエが心配になる。が、俺は今ここを動けない。つまり待つことしか出来ないのである。


**


ナマエが再び俺の前に姿を現したのは夕方だった。


「ナイト様のお探しのクッキー、手に入れて来ましたよーう」
「…やけに疲れてるみてえだな」
「いやあそりゃそうだよ……あいつら全然ワイルドクッキーだけ落とさないの…」


私今日何回戦ったんだろ、とぶつぶつ言い出すナマエはとにかく、非常に苦労をしたようだった。差し出されたクッキーは俺のために。つまりナマエのこの疲労は俺のせいであり俺のため。疲れた甘いもの食べたい、と子供のようにダダをこねるナマエの肩に手を置いた。なあにヒューザ、と不思議そうな顔をするナマエは本当に昔から変わらない。


「ありがとうな、ホラ礼だ」
「お礼?そういえばそんなの…………………えっ?」
「お前の為に作ったんだ」


有り難く食えよ、と睨んでやるとナマエがこくこくと頷いた。「愛の…愛の!?」「なんだよ」「なんでもない!」マカロンを見つめて目を白黒させ、俺をちらちらを伺うナマエはなんだか非常にムカつく。どことなく頬が赤いのは多分、気のせいだろうけれど。

まあ、もし…俺がナイトになったらまず手始めにあいつのところに行って、礼を言うだろう。他の誰からのクッキーと物は同じなのだろうが、相手により特別になるそれだ。集計に含まれなくともいい。このクッキーは俺のものだ。







(2014/03/03)