DQ4生誕24周年記念


(※夢×)

「……あれ」


家の中には誰もいなかった。おかしい、この時間だったら母さんも父さんも起きているはずだ。眠気を誤魔化すために目元を擦りながらキッチン、バスルームと巡ってみるけれど誰もいない。

家の外に出てみた。朝の爽やかな風が心地良い。小鳥がぱたぱたと飛び立っていった。「…居ない?」いつもなら畑仕事をしているおじさんがいない。宿屋の奥さんが家の前を掃除していない。不安に駆られて思わず襟元を握り締めた。

村の中はまるで生活感をそのままに、人だけがそっくりそのまま消えてしまったかのような感じがした。思わず家の中に戻り、もう一度今度は念入りにタンスの中まで人影を探す。大声にこそ出さなかったが、母さんと父さんの名前を呼んだ。けれどどこにもいない両親に焦りと恐怖を感じてしまう。―――こんな事が前にも一度、あったような気がする。

外に飛び出して丘の上を目指した。いつもより風は心地良くて、花は普段よりも色鮮やかに見えた。――俺は何かを忘れている?一瞬くらりとしたこめかみを抑えて顔を上げると、丘の上で懐かしい桃色が揺れているのが見えた。羽帽子がふわりと風に舞い上がって、俺の手元に落ちてくる。


―――シンシアはゆっくりと振り返ると、俺に向かって微笑んだ。


「ソロの忘れんぼさん!まったく、こんな大事なことを忘れちゃってる」
「シンシア?これは――」
「まったくもう!しょうがないなあ、……一回だけよ?」


イタズラが成功した!とでも言わんばかりに嬉しそうなシンシアが駆け寄ってくる。俺の背中に回り込んだシンシアは、首に腕を絡めて耳元に顔を近づけた。吐息が耳にくすぐったい。やめろ、と言おうとしたところでシンシアが何事か俺に囁いた。それはとても、大事なことだった気がする。

風に同化してシンシアが消えた。振り向くと花びらが風に舞い踊っていた。手元に残った羽帽子を抱きしめると涙が溢れ出て止まらなくなった。

――俺は、シンシアに何を言われたのだろう。


**


「……あ」


ぱちり、と目が開いた。一瞬だ冴えていく頭が認識したのは宿屋の天井だった。目元をつう、と液体が伝ったから思わず拭っていた。俺は泣いて…いたんだろうか。なんだか酷く大事な夢を見ていたような気がするが、内容はまったく思い出せない。

そういえば昨日は何をしていたんだっけ。殴られたような痛みを感じる頭を押さえ、枕元にいつも置いている剣を取り上げた。何やら周囲はしいんとしていて、常に聞こえる一階酒場の騒ぎ声すら聞こえてこない。

何やら嫌な予感に駆られて剣を腰に差した。柄に手をかけながら階段を下りていく。昼間から酒を飲むダメ人間で常に溢れているエンドールの酒場が静かなのだ。騒がしいカジノの様子すら伺えない。魔物の襲撃でもあったのか、と一瞬頭を過ぎった考えを打ち払った。――デスピサロはこの手で倒した。それは間違いない。


「……誰かいないのか」


声はやけに響いた。階段を降りるのを少し躊躇い、しかし何かあったとなれば自分も行かねばならないのだからと足を踏み出す。酒場はがらんどうだった。階段から見えるカウンターには誰もいない。おそるおそる近寄って覗き込んでみても、酒が並んでいるだけだ。


「――――っ!」


焦りと恐怖に襲われた。目を覚ましたら誰もいない。ライアンも、アリーナも、クリフトも、ブライも、トルネコも、ミネアも、マーニャもいない。もうこりごりだった。シンシアを、両親を、…村のみんなを失った時点で俺はもう既にいっぱいいっぱいだったのだ。そんな俺がここまで来れたのは確かに仲間たちのおかげであり、あいつらに二度と会えないと。それは俺にとって恐怖の対象そのものだった。失うことは、何よりも怖い。考えただけでくらくらとする頭を抑えた。…何かが足りないような気がしてならない。

―――俺は何かを、忘れている?


「っ、」


宿屋のドアに手をかけた。「なんだっつうんだ…!」苛立ちに任せてドアを乱暴に開く。









――――満開の花が、はじけた。















『ソロの寝ぼすけさん!』








「……は?」

「やーっと起きた!もう、今何時だと思ってんのよ!」


頭からずるり、とリボンが落ちて地面に広がった。目の前で俺に向かって指を突き出してきたマーニャに呆けた声でもう一度、は、と返してしまった。「あああもうほんっとに忘れてたんだ!」信じらんない!とマーニャが叫ぶ。それをかき消してしまうぐらいの大歓声と、色鮮やかな紙吹雪が自分の周りを舞っている。街中に吊るされた旗と飛び交うバルーンと、俺に手を振る街の人たち。


「まあまあマーニャ殿、しょうがないではござらんか。アリーナ殿の拳をまともにくらったのだから」
「姫様のパンチはそんなに効きましたかな」
「ごめんねソロ、準備には時間が必要だったから眠って貰うのが一番手っ取り早くて…ついつい」
「しょうがないですよ。ソロさんってばラリホーもなにも撥ね退けちゃうんですし」
「べ、別に羨ましくなんて無かったですからねソロさん!」
「お酒も気分じゃない、って飲まれませんでしたし」


ライアンがマーニャを窘め、ブライが自慢気に髭を撫で、アリーナが目の前で手の平を合わせて俺に頭を下げている。肩をすくめるミネアの隣で、クリフトが恨みがましい目線を俺に向けてくる。いやあ楽しかったです、と嬉しそうに俺に近寄ってくるトルネコは満面の笑顔だった。「でもやはり、主役がいると違いますな」

トルネコの言葉に俺を囲む7人がそれぞれ口元を緩めた。「まあ、…そうね。ソロには本当にお世話になったわ」今更だけど、とマーニャがふふんと鼻を鳴らした。「姉さんは素直じゃないんだから…」それをミネアが嗜めるのも普段通りだ。「では練習通りに」ライアンの声に全員が頷く。呆気に取られたままの俺の前で、せーの!と誰かが声を上げた。



Happy Birthday!



(2014/02/11)

ハッピーバースディ!

3には間に合いませんでしたが、4は絶対にお祝いしたかった。エンドールでお祭りすればいいと思います。初めてクリアした思い出深いドラクエです!