ヒューザとウェディに転生した女主





短い人生だった。とても、とても短い人生だった。
たった一つ、残さなかった悔いといえば、愛する家族を守れたことだろう。


視界が揺らめいて、どこかの浜辺を映し出した。激しく剣を打ち合う青年と少女の姿がうすらぼんやりと、視界(目が無いから、視界と言っていいのかどうか分からない)に映っていた。実力はほぼ互角といったところ。

そうしたら一人の少女が掛けてきて、明るい笑顔で片方に呼びかけた。振り向いたのは少女の方で、―――青年の方は、余所見をした少女に情けをかけることはなかった。真剣勝負の結末は、少女の死によって訪れることとなる。


(私は、今からあの体を貰うんだ)


花を詰めた小舟に、少女の肢体が横たわっていた。そこで私は見てしまったのだ。どこか、――どこか絶望を孕んだ瞳をした青年の横顔を。自らが犯してしまった過ちの重大さに、彼はじわじわと侵食されているように見えた。そんな彼を横目に私は、するりと少女の体に魂を潜り込ませる。


――まず、クリアになったのは視界だった。


かつての自分の体のように、動かせることに気がついて起き上がった。驚いたような声が上がって、一番に駆けつけてきたのは少女を殺めた青年その人だった。喜びを孕んだ声のその中には疑惑も混じっていたけれど、とにかく青年は瞳に希望を宿していたのだ。


**


それからしばらくもしない間に、青年――彼の名前がヒューザだということを知ることになる。ナマエというウェディの少女とヒューザは共に競い合うライバルだったのだと。そっとヒューザを横目で見ると、明らかにほかのウェディとは違う整った顔だということが理解出来た。ああ、彼はとても美しい。



「……何じろじろ見てんだよ」


知っているんだよ、ナマエに見つめられたあなたがとても嬉しそうにすることを。知っているんだよ、ナマエの声で呼ばれるたびにあなたが心臓を跳ねさせているのを。知っているんだよ、あなたがナマエを好きだったことを。そして、今更にその気持ちが募っていることを。生前のナマエはあなたの気持ちに気がつかなかった。けれども心の奥底ではきっと、あなたのことを想っていたんでしょうね。

けれど残念!彼女はあなた自身が殺めてしまったんだ!そうして代わりにやってきた私は、あなたの気持ちに気がついてしまった。そうして、私はナマエの体のまま、あなたを想っているのです。ナマエの体の中の、私自身に気がついてくれる日はいつなんでしょうか。ああ、ほら、ずっと―――あなたの瞳に語りかけているのに。

可愛らしい人。とても、とても可愛らしい人。ヒューザ、あなたの心が欲しい。全てが欲しくてたまらない。勇者の使命なんて放り出して、あなたを閉じ込めて私のものにしてしまうためにならもう一度、命を投げ売ったってかまわないよ?





(2013/12/08)

ウェディの序盤を若干見ただけでなんか、純粋→病んでいく、みたいなのが思い浮かんだそんなテンション。あれです、何も知らないから色々と目を瞑って頂きたい…