好き好き大好き!




「テリー様テリー様ーっ!魔物魔物魔物魔物が!魔物が!まも、」
「黙れ!お前も魔物だろうナマエ!」


鋭いツッコミと共に私を追いかけてきていたサイレスを一刀両断してくれるテリー様。ああ、そんなところも素敵です…とうっとりしているとレックさんが「ナマエはサイレスにモテるよねえ」とのんびり一言。嬉しくなんてありません!サイレスはバシルーラで私を自分たちの住処に飛ばそうとするんですよ?それに野蛮で会話も出来ませんし。それにあのサイレス共の住処が地獄だとすると、私にとってテリー様のお傍は天国!自ら天国を離れ地獄に飛び込むバカがどこにいます?「ありがとうございます、テリー様っ!」「暑い。離れろ」「そう言わずに!お礼のキスの一つでも受け取ってくれませんか?」「そうだな、謝礼としてお前が俺に近寄らないというのなら考えてやらんでもない」テリー様は昔と比べると変わってしまったが、その態度とは裏腹に抱きつく私を拒絶しない。多分人間だったらこうはいかないから、遠慮なくすりすりとテリー様に頬をすり寄せた。……と、ぐいぐいと後ろに引っ張られる。ううっ、私のマーキングタイムを邪魔するのなんてたった一人…いや一匹しか心当たりがない。振り返ると、予想通りの影がどーんとそこに立っていた。思わず頬をむくれさせる。


「ナマエ………青い人間から……離れる」
「やですよう!ドランゴさん引っ張らないでくださいっ」
「そんなに密着すると………戦い………負ける」
「テリーさんは最強なんですもん!負けませんもん!」


「そうでしょう!?」テリーさんに問いかけると、まんざらでもないという顔をされた。少し口元を緩める姿がレアで、それ以上に気恥ずかしくなったので目を逸す。しかし喜びは隠しきれないから「……ふへ」ふへへへへ、とにやつきながら笑う私の肩。そこにぽんと置かれた手。振り返ると優しい笑顔のアモスさんが立っていた。アモスさんは純粋なモンスターではないが、私と結構気の合う良い相談相手である。


「その割にはテリーさん、最近私と馬車で過ごしてますよねー?」
「"ザラキーマ"!」
「がふっ!?」
「アモスさーん!?ちょ、ナマエさん何してるんですか!?」


――前言撤回!「テリーさんの事バカにしないでください!」思わず自らの使える最高位の呪文を放ってしまい、見事死の呪文が成功したおかげでアモスさんの魂が天へと召されていくのが肉眼で確認出来た。爽やかな顔をしたアモスさんの薄い体が天に登っていくのはなんとも清々しい光景である。それを見たチャモロさんが大慌てでザオリク!とアモスさんを蘇生させた。引き戻されるアモスさん。それを横目で見ながら心の中で誓う。もう二度とアモスさんと会話をしない、と。


「うううレックさーん!テリーさんも馬車から出してあげてくださいよう!」
「ナマエ、俺達がテリーに戦闘させないのってナマエのせいなんだけど」
「…え?」
「ナマエってば自覚無いのー?馬車の中で延々イチャイチャされたらそりゃー呼ぶのにも勇気が要るのよ?」
「弟のそんな姿を見るのはちょっと…嬉しい気持ちもあるのだけどね?」


失笑するレックさんに続き、からからと笑うバーバラさんが私の頭をつんつんと指でつつく。お姉さまことミレーユさまはにこにこと笑顔で、しかし目を逸らしながらそんな事を言うのだ。しかし残念、私にそんな覚えはない。従って浮かんでくるのは疑問符のみ。


「………えっ?イチャイチャ?」
「ちょっと待て姉さん、それにバーバラ!誤解してる!」
「できるものならしたいですけどさせてくれませんよ!」
「ギルルン……そんな事……させない……!」
「そうですよう!ちゅーでも迫ろうものならアモスさんがニヤニヤ笑ってきますし、ドランゴさんが戦闘放り出して私の首狙ってきちゃいますもよ!」


人間型の魔物は上位種といえど、ドランゴさんには流石に敵わないのだ。だってドランゴさんご主人様であるテリーさん差し置いてスタメンですもん。


「じゃあ普段何してんだよお前ら」
「へ?ハッサンさんってば何言ってるんですか?当然テリーさんにブラッシングしてもらってるんです!」
「………ブラッシング?ナマエは人間型の魔物なんだし、どこブラッシングするの?」
「髪の毛に決まってるじゃあないですか!レックさんは知らないかもしれませんが、テリーさんの手ってもう最高なんですよ?昔に比べて大きくなってるし、ちょっとごつごつしててああ成長したなーって思いますし、でも触る時は昔より優しいんですよ!触ってもらってるとそれだけで私幸せになr「もういい!喋るなお前は!おいレック、俺はもう馬車はこりごりだ!さっさと俺も戦闘に出せ!」
「テリーさん、顔赤いですよー」
「チャモロうるさい!」
「へむ!?テリーひゃん顔赤いんです?!」
「っく、くすぐったいから喋るな!黙ってろナマエ!ピエールと配合してやろうか!」
「んにゃあああああいいいやああですうううううう!!!!」
「……ナマエ殿……某、傷つくでござるよ……」
「テリーひゃんがいいです!テリーひゃんじゃないとだめれす!第一ピエールさんは大事な主力なんでひゅから!ここ重要でひゅよ!テリーさんよりレベルも高「黙れ!」


ごつん!と鈍い音と同時に脳天に走る衝撃。雷鳴の剣を遠慮なく振り下ろされ、目の前に星がきらきらと舞う。ようやく目元が落ち着いた時、顔を覗き込んでいたのはアモスさんで、「テリーさんは素直じゃないですねえ」なんて言うものだから二度と会話しない宣言は取り消すことにしようと思う。



好き好き大好き!

(テリーさんが戦うんなら私も戦……)
(いやああああサイレス!サイレスこっち来ないで!)
(ざ、"ザラキーマ"!!)

(おいテリー!お前なんとかしろ!)
(レックが空に登ってくよう!ちょっとテリーナマエと馬車に入ってなさい!)
(ああああもう!どうしてそうなるんだよ!)
(私も……馬車………)
(ドランゴ、お前がいないと俺達全滅だっての!)

(2013/06/05)

テリー夢になるはずだったけどY夢ってことで着地。
夢主は魔物です。人間型なのでそれなりに高位の魔物。テリワン時代から見た目は変わってないですけど配合により生まれたのでテリーより年下。というかテリーが親。
ピエールの「某」あたりは完全に妄想で申し訳ありません。

こんな連載をやりたかったという残滓