だいすき!



「ポップのばーか!」
「ンだよ!ナマエのバーカ!」


ふん!とお互い腕を組んで顔を逸らす。ポップなんか大嫌いだ!


**


喧嘩の原因はポップがマァムの足を見つめていたり胸を見つめていたりメルルの胸を見つめていたりメルルの着替えをラッキースケベで見たりしたからである。何で私というものがありながらポップは…!という事で問い詰めたところ「俺は悪くない」の一点張りである。そして言い返してきたのだ。「ナマエだって時々ヒュンケルの事見つめてるだろ」だってヒュンケル綺麗なんだもん。男とか女とか関係なく、あの美貌にはとても憧れる。あれだけ綺麗だったらポップも私以外見なくなるんじゃないかなあ、と思ってしまうのだ。でもそれを言う勇気なんて無いし第一に私マァムみたいに足は綺麗じゃないし胸だってマァムみたいに無いし、メルルみたいにひたむきにポップを想う気持ちとは……多分、少し違うし。だから意地なんて張っちゃって言えなくて……じゃない!何でポップはそんなにラッキースケベなの!?男である以上しょうがない、だとか言うけれども私だけ、見てれば……いいのに。ポップが願うんなら、いくらでも見せてあげるのに、ポップは彼女をほったらかしにして他の女の子の下着姿だとか、足だとか胸だとかを見ているのだ。――という事をレオナに話し終えるとレオナはうんうんと頷く。


「まあ明らかにポップが悪いわね」
「でしょう!?レオナだってそう思うよね!」
「第一に見ちゃうのがねえ……いくらお年頃って言ってもナマエがいるのに」
「……まあでも、ポップは基本スケベだし。スケベだし。スケベだし」


でも好きなのだ。何で好きなのか、なんて知らない。大好きで大好きで、でも嫌いだ。今は。なんであんなに余計な事ばっかり……マトリフさんみたいにならないか本気で心配になってくる。戦闘の時はあんなに格好良いのに。
なんだか……どうして私はポップが好きなんだろうか。第一にポップは私が好きなんだろうか?今まで喧嘩……というか私がポップのラッキースケベに目を瞑っているばかりだったから、喧嘩は今回が初めてなのである。ここに来て恐ろしいまでに大きな不安が私を襲った。そりゃあ両者の同意あってこそお付き合いしているわけだけれど……ポップはやっぱりまだ、マァムが好きなんだろうか。マァムの事を忘れる為に私と付き合ってる?ああ、考え出したらなんだかもう仲直り出来ない気がして来た!


「こらナマエ!またくだらない事考えてるんでしょ?」
「うぇ?!い、いや別に……」
「ったく、心配しなくてもそれぐらいすぐに仲直り出来るわよ。とりあえずナマエ、あなたも今は頭に血が上ってるみたいだし……頭を冷やしてきたら?」
「……うん」


レオナの言う事にも一理ある。とりあえず夜の森は私のお気に入りだし異論は無かった。魔物?不審者?大丈夫、変なのが出てきたら鉄拳制裁だ。


**


「ッでェりゃァァァァァァァ!くらえヒャドアロー!ついでにシャイニングポウ!」


ストレス発散にはやっぱり体を動かすのが一番だと考えて森の木に次々と矢の雨を降らせて蹴りで倒していく。森林破壊ですが何か?大丈夫、後のお説教より今のストレス発散が第一だ。
魔法を載せた弓矢で木を射る。ヒャドの力を纏った弓矢が木に成っていた林檎を氷付けにする。あー…冷たいもの食べたいから後であれ回収して食べよう。
メラ系は流石に大事になってしまうのでヒャド系で気分発散だ。魔法力を使い切るまで動けばぐっすり眠れるだろう。一晩考えれば両者頭は冷めるはずだ。頭の冷めた状態でポップと話をしよう。そう頭の隅で考えながらひたすら動く。弓を射る。

カァン!


「……うっわ」


それなりに魔法力を込めた弓矢が何かに叩き落とされる音――もしくは切り捨てられる音?が耳に届く。森の奥からであろうその音は私の警戒心を一気に引き上げた。
これを弾き飛ばせるとなれば恐らく相当に強い魔物か仲間のうちの誰かだ。どうか、ダイかアバン先生でありますように!ダイやアバン先生なら多分笑って許してくれるだろうけど、ヒュンケルだとエイミさんに何て言われるか分かったもんじゃない!ヒムなら……多分戦おうぜとか生き生きした目で言われるから嫌だ(というか絶対に負ける)。ラーハルトなら……あー……生意気だとか言われて半殺しじゃないですかね?やだ怖い!というか死亡フラグじゃないか!マァムは個人的に気まずいからやめて!魔物?不審者?ああ、先生とダイ以外じゃありませんように!そうた、クロコダインも許してくれるだろうからクロコダインでお願いします


「―――だ、誰?」
「……誰が荒れているのかと思えば……ナマエの弓矢だったのか」
「うおっ、ヒュンケルか……!」


恐る恐る声をかけてみると、多分警戒していたのだろう。ヒュンケルが姿を表した。ヒムやラーハルトに比べたらマシですが良く見ればヒュンケルの手は弓矢がかすったのか少し血が垂れていた。あっ、これ私エイミさんに三時間ぐらい怒られるフラグですね!


「何故泣いているんだ?」
「三時間耐久正座がこの後待っているかと思うと辛いの」
「……エイミには言わないでおこう」
「その言葉を待ってたよヒュンケルありがとう!本当に!ありがとう!」
「そ、そんなにエイミが怖いか?」
「ヒュンケルが絡むとエイミは超過保護になるから」


しかし血が流れていれば目につくだろう。ごそごそとポケットを探る。傷を舐めようとしているヒュンケルの手を押しとどめて、まだ新しいハンカチを手渡した。白い布地に少し血が滲む。


「使って。止血ぐらいしとかないと」
「良いのか?」
「当たり前じゃない。……って巻きにくいよね、私がやるよ」


ヒュンケルの手を取りハンカチを巻きつけた。応急処置だからこれぐらいで良いだろう。後でヒュンケルの元に行って消毒して治療すれば良い。回復魔法が使えれば…と思うものの契約してもまったく使える気配が私には無い。とりあえずヒュンケルがその綺麗な口元を緩ませて「ありがとう」なんて言ってくれたから嬉しくなって私も微笑んだ。――その時だった。


「ッてめ、何してんだよナマエ!」
「…ポップ?」


現れたのはまあ見事に先程喧嘩した我が恋人。ついでにその手にはブラックロッド。激しく嫌な予感が、


「ってきゃあああああブラックロッドをそんな風に使うんじゃありません!」
「い、言われたくねえよ!つーかヒュンケルと何してんだよ!」
「ストレス発散の巻き添えにしちゃったからハンカチを…!」


しゃ、喋れねえ!な、なんでポップはブラックロッドで私の襟首引っ掴んで空中で振り回してるの!?私トベルーラ使えないよ!?落ちたらどうするんだ!ってヒュンケル見てないで助けてくださる?おい待て今その口元「痴話喧嘩か…」って言ったよね今!前言撤回だ!ヒュンケルなんて顔だけだバカ!仲間が困ってるのに助けないのか!


「何ヒュンケル見てんだよ!」
「誤解だってばポップ!」
「大体ハンカチぐらいであんなに笑うのかよ!俺の前だとあんな風に笑わないくせ……に……」
「………ポップ」


語尾が段々と小さくなっていくポップの感情に伴い、ブラックロッドも縮小していく。私は足を地面につけた。そういえばポップがラッキースケベだったからなんというか……私は不機嫌だったりイライラしてる事が多かった気がする。
なんだ、ポップは嫉妬してくれてたのか。――正直とても嬉しい。だって、それは今私があなたの"一番"であるって事でしょう?


「―――ほら、これでいい?」


嬉しさがはじけた。多分、生きてきたなかで最高に笑顔になれた瞬間。ポップは少し目を丸くしたあと、頬を赤くして小さく「ごめん」と呟いた。なんだかそれだけで私が意地を張ってるのも馬鹿らしくなって……とりあえずはこの感情を表現するために、初めてハグをしてみようと思う。



だいすき!

(2013/04/21)

ヒュンケルは空気を読んだのだ……