最後の言葉は


※夢主の性格が歪んでる


「ピーサーローさーまっ!」
「……なんだ?」
「死んでくださいっ!」


振り向いたピサロ様に思いっきりホーリーエッジを叩き込む。……これは、会心の一撃の感触…!完全に決まったホーリーエッジは土埃を巻き起こして周囲を包み込んだ。
今日こそ憎き仇敵を倒した!と思ったのも束の間。ゆっくり薄らいで行く土煙のなかに立つシルエットは憎たらしい。
シルエットが腕を振りかざす。さああ、と優しいバギ系の風が吹き荒れた。土埃が払われ現れたのはピサロ様。チッ、殺り損ねた……


「いつの間にホーリーエッジを」
「ふふーん、さあー?いつでしょうねー?ピサロ様の首を跳ねる為に私は日々努力精進してるんですもーん!あ、今日は結構ダメージ行きましたかー?」
「この調子なら後100年はかかるだろうな」
「まあ今日は血を流させただけ儲けモンですかねー」


たらり、とピサロ様の腕から垂れる血を見ているとニヤつきが止まらない。自分には合わないであろうホーリーエッジを死に物狂いで会得した甲斐があったというものだ。あとはレベルが上がればピサロ様*して首を持ち帰るのも夢じゃないかなー?
あたしを助けた、だなんて戯言を言いながら私の大事なものを全部奪ったこの男をあたしは絶対に許さない。その手から施しを受けていようと、あたしは必ずピサロ様を*して村に帰るの。そして消し去るの。この男の痕跡全てと、あたしの受けた傷を全て。


「それじゃーピサロ様、明日こそ死んでくださいねー?」
「……ナマエ、」
「不愉快なんで名前呼ばないでくださいますー?」


メラゾーマぶちかましますよ、とへらりと笑って魔法を構える。ピサロ様は周囲を伺った。イエティが心配そうな顔でピサロ様を見ている。まあ基本的にあたしはこの村の人達に歓迎されていない。ピサロ様の命を狙っているからである。でもあたしをここに連れてきて"飼って"いるのはピサロ様だからみんな何も言えないんだよねー?都合良いけどねー!いくら魔族の王様と言えどこの村には思いれあるんだろうし、ロザリーさんもいるからこの周囲を炎で燃やすのは嫌でしょう?だからさっさと視界から消えて?


「………もういい、手を下ろせ」
「下ろしてください、って言って欲しいんですけど今回は自重しまーす。ピサロ様もあたしに用事なんて無いですよね?じゃあ今日はこの辺で」
「………………」
「明日こそその首と胴体を切り離してやりますよー」


ひらひらと手を振って背を向けた。―――少し、嫌な予感が脳裏を過ぎった。背中を向ける行為に直感が反応したのだとその時は思ったのだけれど、どうも違っていたらしい。
その時はそのまま村を出て数日程山に篭もり、必死に剣を振った。何故だろう、嫌な予感が消え去らない。


**


「あれー?何だか変な雰囲気ですねー?」


数日後。山篭もりから帰ってきたあたしが村に入ると陰気臭い雰囲気が漂っていた。明らかに何かがあった、と言わんばかりだ。仕方なく村の中央広場に行くと、やっぱり普段と様子が違う。
皆が教会の前に集まっていた。覚えている限りの村の全員。只事じゃないだろうけど関わる義務なんて無いから教会の横を通って家を目指そうとした、その時だった。


「ナマエ!」
「はーいー……ッ!?」


―――反射的に避ける。投げられたのはその辺に落ちているだろう、握りこぶしサイズの石。投げたのはホビットのおじさん。名前は覚えていない。しかしそんな事はどうでも良い。
何故あたしが石を投げられなければいけないのだろうか。意味が分からない。いやまあピサロ様の首を跳ねると普段から告げていたから嫌われているのは分かるけれど、何故石?場合によっては正当防衛で反撃しなくちゃならないじゃないー
するりと剣を抜く。ホビットのおじさんは興奮しているようだった。なあに?あたしが"ピサロ様の敵"だから?


「人間!人間が悪い!ナマエ!お前も人間だろう!お前が手引きしたんじゃないのか!」
「はあ?何言ってンですかホビットのおじさーん。あたし今までずっと山に篭ってたんですよー?何意味の分かんない事言ってくれてるんですー?」
「お前が!お前が、お前がロザリーを…!お前が…!」
「ロザリーさん?ロザリーさんが人間に何かされたんですー?」
「殺されたんだ!」
「…………は?」


頭が真っ白になった。あのロザリーさんが?あたしにもあんなに優しかったあのロザリーさんが?

何を言っているのだろう。ロザリーさんが人間に殺された?ってことは、ピサロ様ってば人間滅ぼす為に地下に篭っちゃうんじゃないのー…?で、噂の勇者さんとやらに倒されちゃうんじゃないの?え、ピサロ様が死んじゃう?ピサロ様を、あたしじゃない人間が倒しちゃうの?何で?ああ、でもピサロ様は負けない……よね?ああ、負けてくれないと困るんだけど負けて欲しくない。どうして?自分が倒したいから?そうだよ、うん、きっとそうだよね?でもピサロ様が倒されないとあたしみたいに大事なものいーっぱい奪われちゃう子がもっともっと増えるよね?でも……ああ。ピサロ様はどうなったんですかー?と小声でシスターに問うた。答えなんて、もう分かりきってる。


「ピサロ様は……勇者とその仲間によって、討ち果たされたと」
「………そう、ですかー」


あーあ、あたしってば生きる目的見失っちゃいましたねー?親も友達も妹も、みんなみんなあの人のせいで死んじゃったのにあたしは仇討ちを成せられなかった。これからどうやって生きていけば良いんでしょう?ねえ、ピサロ様を追いかけるにはどこに行けば良いんでしょう?
あたし知ってたんですよー。実はあたし以外の村人のほとんど全員は魔物に食われて皮をかぶられてただけの本物の人間じゃなかった。あたしが剣を振っている合間に、魔物にあたしの大事な人達は全員殺されてしまっていた。
そうと知らないあたしの力を見て魔物達はあたしを勇者だと勘違いしたんですよねー?それを偶然ピサロ様が助けてくれたんですよね?でも、あたしは貴方が嫌いだ。気がついていても目の前で親を斬られたのだから。それでもあなたはあたしを拾って持ち帰って育てた。何年もの間、あなたの首を取ろうとした。でも、もうそれは出来ない。


「………なんなんでしょうねー、ピサロ様って」


例え今ここであたしが自分で自分の首を跳ねたとしてもあたしはピサロ様の傍には行けないのだろう。あたしは"人間"なのだから、きっともう言葉を交わす事はないだろう。ああ、あなたはあの日の最後に何を言おうとしていたんだろうか?今はそれが気になって気になって仕方が無い。ああ、会えないのがこんなにも辛い。


――そう、歪んでいたけれど、あたしは、


「好きでしたよ、ピサロ様のこと」


頬を何か生ぬるいものが伝った。イエティがあたしの手に花を一輪握らせた。黙って、それをロザリーさんのお墓に添えたあと、シスターがあたしを抱きしめた。
ピサロ様に出会ったあの日に枯れたと思ったそれが、とめどなく溢れた。



最後の言葉は




(2013/04/18)