01


もう一度目を開けても、部屋の光景が変わる事は無かった。


「おはようナマエ、朝から悲惨だったわね?」
「あ、あははは……」


階段を下りると酒場の女主人ことルイーダに声を掛けられた。とりあえずボロを出さないように愛想笑いを返しておく。一体どうしてこんなことになったのか。
とにかく私はリッカに案内されて、隅っこのあまり目立たない席に腰を下ろした。サンディが出てきてテーブルの向かいにちょこんと座り込む。


「じゃ、朝食用意してくるね!…本当にごめんね、疲れてたとはいえナマエはお客さんなのに」
「気にしないで!ほら、シャワーだって貸してもらったし」
「変わりに朝ごはん豪華にしとくね?そういえば今日は鎧じゃないんだ」
「あはは……ちょっと気分転換って事で」


シャワーを浴び、今私が身につけているのは防御力のかなり薄い方に分類される服と妖精の腕輪だけだった。MPがそもそもあるのかどうかは分からないけれど、増やしておいて損はないだろう。…しょうがない、まったく分からないのに鎧なんて着られない。皮のワンピース有り難や。
リッカが厨房に入っていくのを見届けて、はあ、と思いっきり息を吐き出した。なんとか乗り切った。腹はきゅう、と小さく呻いている。何かを考えるにはエネルギーを使うのだ。エネルギーを補給せずして何が出来るというのだろう。

そんな私を半ば睨みつけるように、小さな妖精が手元まで飛んできた。


「ねえ、アンタ……本当に誰よ?ワケ分かんないんですけどぉ……」
「………おおよその見当はついてる、多分サンディの言ってるナマエと私は別人だけど同一人物だよ」
「はあ?む、ムジュンしてるんですけど」
「でも説明が難しい上に確信が持てない……というか信じたくないの私も」


お待たせ!と厨房から戻ってきたリッカがテーブルの上に料理を並べ始めた。意味不明、とぽつりと呟いた声は私の耳にも届く。
耐え切れなくなってサンディから目を逸らした。……自分の考えを私だって信じたくないけど、そうとしか考えられないのだ。

―――ここはDQ\、しかも"私が"プレイしていた星空の守り人の世界だ。多分

シャワーを浴びて置いてあった袋を覗き込めば四次元ポケットの如く大量に溢れ出した荷物。それら全てに私は見覚えがあったのである。
ありとあらゆる武器、防具、服、装飾品、道具……大量の薬草類に聖水、宝石。オーブに宝の地図に進化の秘石。

―――覚えている限りの全てのアイテムの数が一致していた。

ぞくりとした興奮と共にどうやったら帰れるのだろうという不安が一斉に押し寄せて頭が真っ白になって、言われるがままにシャワールームへ。
冷たい水をひたすら浴びたけれどもやはり夢じゃないみたいだったこの事実。


「……帰らなきゃ」
「へ?どうしたの?並べ終わったわよ?」
「え、あ!ありがとうリッカ」
「人ももう少ないし、ゆっくりして行って?」
「それじゃあお言葉に甘えて」


いただきます、と手を合わせるとリッカはカウンターに戻って行った。それを目だけで見送りながらスープ口に運ぶ。とりあえずはサンディも朝食を取る事にしたらしい。パンをちぎってもぐもぐと頬張る姿はとても可愛らしい。
思わず口元が緩んでしまう。―――そんな私を見上げた妖精は不機嫌そうだけれど。


「……ねえ、ホントに別人なの?アタシをからかってるんだったら承知しないんですけど」
「へ?」
「何、アンタ無意識ィ!?……いつもと同じじゃん、アタシ見てそんな風に笑うの」
「………」


―――私自身がこの世界の私に成り代わったと言って、この子は信じてくれるのだろうか



奇妙なリンク



(2013/03/08)