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「…………は?」


目が覚めると見知らぬベッドの上でした。
服装は寝巻きに使ってるゆるゆるのジャージとTシャツとパーカー。
枕元には寝る前にやっていたゲーム機なんてもちろん無くて、部屋の中は己の身以外知っているものが何一つ無い。

―――まあ、単純に考えれば夢だろう。

しかし夢にしては顔にぶちまけられたスープはやけに熱を帯びているし、熱いし痛い。
口の中にタイミング良く落ちてきたハムをかじってみる。うん、ハムだこれは。
くる、と顔を傾けてみれば床に倒れこむオレンジ色のバンダナの少女。髪の毛はありえない水色である。
はは……え?何?つまりこれ、朝食ですか?運んでこられたものを私の顔面にぶちまけちゃったと?


「あ、熱っ!?痛いっ!?」
「うわあああごめんねナマエっ!って、こんなとこに剣置いとくのが悪いんじゃない」
「へ?剣?――って、何で私の名前……」
「寝ぼけてるの?とりあえずシャワー用意してくるね、浴びてるうちに全部片付けとくから。あーあ、やっちゃった……久しぶりだわ」
「え、あ、はい…?」


そう告げてぱたぱたと走り去っていく少女。スープまみれで頭にパンを乗せた私は呆然とそれを見送った。
あ、あれー…?何が、どうして、こうなった?
とりあえずパンを掴んで放置されたお皿に置くべく立ち上がる。夢のはずなのにリアルな感覚。歩く感覚も本当にリアルで……
瞬間がつん、と足に衝撃が走った。足元を見ると美しい鞘に収められた大きな剣。彼女はこれにつまずいたのだろう。
周囲を振り仰ぐと乱雑に置かれた鎧。兜。ブーツ、篭手、盾……枕元には綺麗な腕輪。
――――それら全てに、私は見覚えがあったのだ。


「……………なん、だと?」


そういえばさっきの女の子、あの子も私知ってるぞ?リッカでしょ?宿王の!
嫌な予感がぞくぞくと背中を駆ける。跪いてパンを床に置き、剣を手に取った。
ずしりと重い刀身を片手で支え、柄を持って……ゆっくりと引き抜く。

―――銀河の剣

刀身が青く輝く、美しい宝剣。多大な苦労の末にようやく錬金大成功した唯一のブツ。
しかも成功したのは昨晩眠る前と記憶に新しい。
振り返るとまあ普段自分がゲーム内でひたすら使い込んでいる防具やら武器やら道具やらが詰まっているのであろう大きな袋。
極めつけはこれだ。


「ふあ〜あ……あ?ナマエ、スープまみれで何やってんのぉ?新しい遊び?」
「…………さん、でぃ?」
「えっ何その変なカッコ?チョーうけるんですけど?……あれ?」


不審そうな顔をした小さなギャル系妖精が私の顔を見て不審に思ったらしい。寝起きだからかゆっくりと動き、私の目と見つめ合う。
え、っていうか、え?浮いてる?羽ピンクで?この喋り方?―――もしかして、確定?


「―――ッ、アンタ誰っ!?ナマエと同じ顔だけど別人じゃん!え、でも同じ!?」
「よくわかんないけどもしかしてサンディ!?」
「な、何確認してんの!?アタシ――って、はあ!?アンタ誰よ!?」
「私はナマエです!間違いなく!」
「でもアンタはアタシの知ってるナマエとちょっと違――いや、知って……」
「……………」
「……………」


無言で布団に潜り込む私(とサンディ)。そうだ、これはきっと夢だ。
ならば再び目が覚めれば元の世界に戻っているはずだ。
スープの香りがするけれどもきっと目が覚めたら部屋のベッドだ。うん、きっとそうだ!



おはようございます、さようなら

(シャワーの準備出来たよー!って)
(ちょ、何してるの!?)
(そこスープまみれなのよ!?早く起きてよナマエってば!)

(2012/12/15)