どっちを選ぶ?▼


黄緑か、オレンジか。いっそ覚悟を決めて、他の色にするか。


「ですがお嬢様、今のお召し物に一番良くお似合いになるのはこのどちからかと…」
「どっちかといったら?」
「……どちらも?」
「カマエルの優柔不断!」
「どちらもお作りになるという選択肢は」
「二つも作ってどうするの」
「大変失礼致しました」


お許しください、と蓋をぱたぱた言わせているカマエルはどこか楽しそうでもある。それもそうだろう、カマエル曰く悩むのもまた錬金の楽しさのひとつ、だし。「……ううん」黄緑か、オレンジか。まさかこんな悩みを抱える日が来るなんて…自分でプレイしていた時とは違って、目の前のカマエルは錬金で生み出すものの色や装飾をある程度なら好きに選べると言う。そんなわけで、私は酷く悩んでいるのだ。性能だけなら見た目を気にしなくていいのかもしれないけどそこは私も乙女なもので、どうせなら見苦しくない色合いでまとめたい。

それにしても選択肢が黄緑とオレンジ。この装備はさっきまで手直しを入れていて、徹夜の末にようやく完成したそこそこの自信作。カラフル過ぎるわけでもないけど華やかで、所々の甲冑パーツもあまり無骨に見えないように上手く配置されている。今回の装備は自分でもなかなか上手く組み合わせられたと思うし、だからこそ一番合う色の髪飾りを選びたい。(それで足手纏いになる確率を下げられるのなら、下げられる限り全力で下げたい)「あれ、ナマエ」「ほんとだ、…頭抱えて何してるんだろう」ううん、黄緑は植物モチーフ、オレンジはお花のモチーフ…もう悩むぐらいならいっそ最初に考えてたサンディとおそろいのピンク色…


「ナマエ、どうしたの?」
「へ、アルス!?こんな朝早くにどうしたの?」


上から降ってきた声に顔を上げると、酒場の二回からアルスがひょっこりと顔を覗かせていた。「エイトと素材を採りに行くんだ。これぐらいの時間に、海辺でしか採れないっていう…なんだっけ?」「貝殻と、砂と、サンゴだけど僕も名前はよく覚えてないなあ」言葉を続けたのはアルスの隣に立っていたエイトで、エイトも私と同じように錬金のレシピ書を片手にこちらを見下ろしていた。そういえば、アルスが最近エイトに錬金を教わっているってマリベルが言っていたような。


「ところでカマエル、それは?」
「お嬢様の装備に合う髪飾りを作っておりまして」
「エイトまで!…って、カマエルもぺらぺら喋らないでよ!」
「これは失礼致しました」
「カマエル、絶対失礼だって思ってないでしょ」
「お嬢様が皆様の助けになりたいと、装備を考えていらっしゃる姿が微笑ましくて」
「カマエル!」


手を伸ばしてカマエルの口を塞いでも、間に合うはずもない。ぱちぱちと瞬きをした二人の口元がすぐに緩んで、目線が生温いような、優しいものになったのを察した私は非常に気まずい気持ちになる。「ナマエ…」「ナマエ…!」エイトがうんうん、と頷いてアルスが嬉しそうに目を輝かせている。き、気まずい!ああもう本当カマエルのばか…!言わなきゃ絶対分かんなかったのに!そもそもこういうのはわざわざ言うことじゃないんだってば!

私は影で試行錯誤しているのをあんまり皆に知られたくない。出来る限り隠して、戦う時に気を遣われないようにしたい。だから剣を練習する時だって隠れるし、装備を調節する時も絶対に部屋に篭る。錬金でも自分に関わる装備は人のいない時間にやるようにしているのに…「水臭いよ、ナマエ。ねえエイト」「本当だよ」階段を下りながら、二人がにこやかに話しかけてくる。…見つかる時は見つかるものだ。腹をくくるしかない。


「助けになりたいとか、そんな大層なことは考えてないけど…多少は足を引っ張らないようにしたいなあって思ってたから…その」
「大丈夫だって!僕もアルスも、他の人に言わないから。ね?」
「もちろん。…言わなくったって、ナマエが頑張ってるのは知ってるし」
「それでナマエ、何を作るの?見たところ装飾品みたいだけど」


アルスの言葉を遮ったエイトが、私の手元を覗き込みながら聞いてきた。「あ、うん、この髪飾りなんだけど…カマエルが黄緑かオレンジが今のコレに合うだろうから、どっちにするかって」錬金仲間同士、私とエイトはレシピを結構な頻度で交換している。示したページの髪飾りのレシピはエイトも持っているはずだ。このあたりは中級〜上級レシピといったところだろうか。錬金に慣れていて、ちょっと高位のものを作る時に手を出すレベル。

これか、と頷いたエイトは自分のレシピ帳をぱらぱらと捲って、付箋の付いたページで手を止めた。「確かゼシカに同じものを作ったんだよ。見た目がかわいい、って褒めてもらったかな。…えーっと、僕が作ったのは青だ」「オレンジってどんな感じなの?」覗き込んできたアルスにこれ、とページの一部を指差してやるエイト。「黄緑は?」「これ」私も自分のレシピの一ページをアルスに示してやる。


「どっちも…その、ナマエに似合うと思うけど」
「僕はオレンジが良いと思うよ。お花かわいいし」
「でもエイト、黄緑も可愛くない?結構華やかになるんだよ、これ」
「そうだよ!僕はナマエに似合うと思うし、黄緑が良いと思う!」
「ど、どうしたのアルス、力説しちゃって」
「え!?い、いや僕は別にナマエと色がお揃いに……なったらいいなあ、とか…」


拳を握って力説したかと思えば、いきなり顔を赤くしてエイトの後ろに隠れてしまうアルスに私はどうすればいいのか分からない。私に何か言ってるのは口の動きで分かるんだけど、アルスそれ多分エイトにしか聞こえてないと思うの。…うーん、そうだなあ。


「じゃあ黄緑にしとこうかな。アルスがそんなに言ってくれるんなら」
「ほんと!?」
「うん。じゃあカマエル、黄緑でお願――」
「待ってナマエ。女の子らしさを求めるんならやっぱオレンジだと思うよ」
「ゆ、揺らがさないでよエイト!」
「それに今セントシュタインで花飾りを着けた女の人、結構見かけるから流行りだと思う」
「流行り…!」
「何より僕のバンダナとお揃いだけど、どうかな」


にっこり、笑ったエイトにアルスが何か言っているけど私はそれどころじゃない。アルスは私に似合うと黄緑を推して、エイトは流行りとか、女の子らしいとか…!しかもお揃い、って言って笑うのは整った顔でやることじゃない。一瞬ぐらつきかけた心臓を抑えて、どうされますか?と呑気な声で問いかけてくるカマエルに向き合う。「…エイト、ずるいよ!僕に応援してくれるって言ったくせに!」「応援するとは言ったけど、邪魔しないとは言ってない…!」…こそこそ、二人が言い合っている内容は上手く聞き取れないけど私の悩みのタネが増えたことはよく分かった!うう、本当どうしよう…!

とにかく!とアルスが私達以外に人のいない酒場で、声を響かせた。「エイト、海辺に行かなきゃ。ナマエ、僕らが帰ってくるまでにそれ作り上げるんでしょ?」「……へ」間の抜けた声が口から漏れる。やけに凛々しい目で私を見るアルスは、黄緑ね、って念を押してから入口のドアの方へ歩き出した。え、二人が帰ってくるまでに決めるの…「エイト、どうしよう」「僕はオレンジ、選んでくれたら嬉しいなって思うけどなあ」ナマエとお揃いにしたい、ってもう一度笑ってアルスを追いかけて歩き出すエイト。

二人は扉を開けて外に出て行って、残されたのは私とカマエルだけ。「……どうしよう、カマエル」「お嬢様は愛されておりますねえ」「いやよく分かんないけど、どうしよう…」目はないはずなのに、どこかカマエルから生暖かい目線を感じるのは気のせいなのだろうか。



どっちを選ぶ?▼



(2015/03/28)

二周年+三十万打企画より、ハロ様のリクエストで最弱番外でした。
7主8主の奪い合いとのことでしたが、なにせ奪い合いみたいなものを書く事がなかなかないのでなまぬるーい奪い合いになりました…これを書いた現在、本編ではまだ8主が出ていませんが、7主は特に8主と兄弟って感じで特に仲良しこよしさせる予定なのですごくほのぼのすることになりました。みんなの弟7主くん!女性陣からも可愛がられていると思います。夢主より可愛がられているんじゃないでしょうか。8主はすごく甘やかしてくれそうなお兄ちゃんのイメージ。
内容はなんかもう奪い合いに遠くなってしまったので、髪飾りの色でちょっとした小さい会話のみですけど、分岐を付けてみました。ご参加ありがとうございました!最弱系読んでくださってありがとうございます!




*黄緑の髪飾り

「結局アルスが言ってたから、黄緑にしたけど…どう?」
「…うん、すごく似合う」
「ど、どうしたのアルス。真顔でそんな、頷くなんて」
「違うよ!…思ってた以上に似合ってて、可愛かったから…!」
「へ?」
「…あーもうなんでもない!…僕と色がお揃いで、嬉しいだけだよ」
「あ、そういえばそうだ!うん、私も嬉しい。アルスとお揃いかあ」


*オレンジの髪飾り

「ナマエってさ、可愛い子だよね」
「ど、あ、か、……な、なに急にそんな、可愛いとか」
「そういうとこ。素直にオレンジにしたり、女の子らしいのが好きだったり」
「だって私も女の子だし…流行りも気にするよ」
「僕はお揃いなのが一番嬉しいけど」
「…エイトってさ、タラシだよね」
「そうかな?」

「(ナマエにだけ、とは言えないなあ)」


*おまけ ピンクの髪飾り

「ねえナマエ、黄緑でもオレンジでもないんだけど…」
「だって!何も考えてなかった時に!最初はピンクにしようって!」
「……………ナマエのばか」
「そうだよ、僕はともかくアルスが不貞腐れちゃうだろ」
「えっ、これ私が悪いの?」
「間違いなくアンタが全部悪いわヨ、この鈍感」
「しょうがないよサンディ、僕もアルスもそこまで表立って行動してないし」
「……エイト、アンタって……」
「な、なにサンディ、どうして私をそんな哀れみの目で見るの」

「良いよ、ナマエには自分で作った髪飾りを今度プレゼントするから。ね、アルス」
「…うん。エイトに教えてもらうんだ、僕も」
「二人は仲良いわよネ」
「サンディも私ともっと仲良くしようよ」
「……カワイソ」
「なんで!?」