48



テリーが姉にこれまでの経緯を聞くらしい。

協力するか否かはそれから決める、と私はテリーに睨まれた。…正しくは多分、私の持っていた粉砕の大鉈だと思われる。銀河の剣をテリーの目の前に持ってきたらどうなるんだろうと考えた。今はナイン君が持っている、私の最高傑作である。


「……あれ?そういえば、オノ持てたなあ…」
「オノ?」
「いや、重かったけど装備出来たなあって」
「オノ振り回す?ナマエが?……眠いなら部屋に戻っていいぞ」
「馬鹿にしないでよ!これでも剣とオノとハンマーと弓矢は極めてるもの!…多分」
「多分!多分か!そりゃ傑作だ!」


デッキの真下、甲板でアレンが私を指差して爆笑する。深夜も深夜、私達二人は先程まで見張りをしてくれていたミレーユとソロに代わり、夜の海の見張りをしていた。ついさっき発覚した事実、船にテリー(とスラおとドラきち)が忍び込んでいたということもあり、私の頭もアレンの頭もすっかり冴えてしまっていた。おかげで眠気に惑わされず、こんな会話をしながら船を進めることが出来ている。

しかし疑問なのは(あまり試さなかったけれど)私の扱える武器だ。それと技。私はこの世界の中にいる私の分身を強く育てることしか出来なかった。その分身に成り代わったとはいえ、性能まで引き継げるものなのだろうか。多分無理だ。今ここにいる私は至って普通の生活をしてきた、ゲームが好きな一人の女にしか過ぎない。じゃあ、あの不思議な力は?

湧き上がる魔法力と飛躍的に上がる攻撃力。あれは私に元々あったものでは無いだろう。


「おいおい、何難しい顔してんだ」
「……考えることがありすぎて、ううううん……」
「あのなあナマエ、物事をあまり深く考えすぎても毒だと思うぞ?」
「でも考えずにはいられないっていうか」


はあ、とアレンが溜め息を吐いた。「ほら下りて来い」えっなんで、と聞き返すともう一度溜め息を吐かれた。解せない。「いや、…え?」「お前みたいにうじうじ悩んでるやつはな、体動かしてなにも考えないようにすりゃいいんだよ」相手してやるからほら、と腰の剣を抜いて手招きを再びするアレン。…なるほど、物理特化勇者は言うことが違う。

確かに少し体を動かした方がいいかもしれない。それにアレンに特訓をつけて貰えるのならこれほどありがたいことはないのだ。早速デッキの階段を下りてアレンの元に駆け寄ると、もう一度深い溜め息を吐かれた。


「こ、今度は何!」
「お前さ、丸腰で俺と打ち合う気か?死ぬぞ」
「あ」


――そういえば地下に袋、置きっ放しだった。


**


同時刻、天の方舟の内部。


「要するにぃ、アタシはあの子の土壇場で出す力の正体になんとなく気がついたってゆーかあ」
「まどろっこしいぞサンディ!さっさと聞かせろ」


アレフが昨晩の出来事をサンディとムーンに話し終えると、まず反応したのはサンディだった。が、誤魔化したように続けるサンディの言葉にアレフは苛立ちを抑えられなかった。話したくないとでも言わんばかりのサンディの言動がアレフには正直我慢ならない。

ムーンはムーンで、女の勘とも言うべきか。サンディの話したくないであろうことは、とても言いにくいことなのだろうと思ったから何も言わなかった。そんなただじっと黙って話を聞いているムーンの様子もアレフには気に食わないらしく、お前もなんとか言えよ!とアレフはムーンを煽ろうとする。しかしサンディもムーンも口を開かず、アレフは非常に苛立っていた。


「……すみませんアレフ、僕にもなんとなく分かりました」


――そんな中、ナインまでそんな事を言い出したのだ。まったくわけのわからないアレフは、苛立った表情を隠そうともせずにナインを睨んではあ?と。それに対するナインはサンディと同じく申し訳無さそうで、それが正しければまだお話出来ないのです、と返す。


「多分、アレフやムーンさんには納得の行かない話になると思いますが…」
「既にこの状況、お前とサンディだけが理解してる理由が気に食わねえ」
「でも今はお話出来ません。それより早急にやらねばならないのは、ナマエ様の育成です」
「育成だあ?」


アレフの機嫌はすこぶる悪かった。目の前で堂々と隠し事をされるのは好きではなかった。しかしナマエの育成と聞くと、流石のアレフの首を捻らずにはいられない。「…どういう意味だ、それ」思わず素で問いかけると、苦々しい顔のナインが同じく気まずそうな顔をしたサンディとともにアレフの方を向く。


「多分、早いうちに手を打たなければナマエ様はあの不思議な力を永久に失う」
「……どういう意味だ」
「それはこの世界を救い、守っていくはずだった"本物の勇者"を失うことを意味しているんです」


ナインの言葉をアレフは上手く咀嚼出来ない。

本物の勇者、と言われても酷く戸惑うだけだった。それも当然で、ナマエはアレフたちには自分が異世界から来たと伝えていないのだ。そうしてそれをナマエが自分から伝えていないのであれば、それこそナインやサンディからそのことを話すことなんて出来なかった。魔物の居ない、平和な世界から連れてきた少女を唐突に勇者に仕立て上げた神が、自らを導いた神だと誰が言えるのだろう。


「言いたくないのなら、私は聞かないわ」


ムーンがよく通る声でナインとサンディに告げた。アレフがいいのか、と言わんばかりの表情で自らの子孫を振り返る。「でも、私だって…過ごした時間は短いけれど、ナマエを勇者として支えてあげたいと思ってる」その言葉に三人は目を見開いた。口元を緩めて目を細め、ムーンは静かに微笑んだ。


「勇者は一人では成り立たないの。誰かが支えなければいつか壊れてしまうわ」


――アレフは息を呑んだ。ナインとサンディは押し黙り、俯いた。三人が頭にそれぞれの思いを巡らせようとした途端、空気を読まないアナウンスが四人の頭上に降り注いだ。

目的地に到着するぞ、というアギロの声に彼らはそれぞれの武器を手にした。ナインは手に取った銀河の剣を見つめる。「…大丈夫です、守ります」呟いた言葉を耳にしたのはサンディだけだった。彼女はナインを馬鹿にしたりはせず、黙ってそれを見つめていた。同じ気持ちを剣に抱いたのだ。剣は美しく宝玉を煌めかせ、二人の瞳を映し出していた。



それぞれの夜明け



(2014/02/09)

主は一主二主王女に、自分はこことは違う別の世界から来たと言ってはいます。ただ、魔物もなにも居ない世界から来たとはまだ言っていません。一主達はここが"自分達のいた世界とは違う"とは思っていますが、共通の魔物(スライムとかスライム)がいたせいでパラレルワールドに来たという認識です。ただ、主はまったくの異世界から来ています。
紛らわしい書き方になってしまって申し訳ありません。DQ世界→別軸のDQ世界に来た一主達と、科学世界からDQ世界に来た主は同じようで違う、という設定になっています。

一主達は主が魔物の存在を知っていたということで自分達と同じように、別軸のDQ世界から来たと思っています。ついでに主が勇者だと名乗ったせいで(弱いけれども)それを確信に変えています。主は神様達が弱ってしまって魔王達が復活してる!とは言っていますが、自分に戦闘経験がほぼ皆無に等しいこと(言わずもがなバレてる)、本当は勇者でもなんでもない、といったことは言っていません。この世界の本当の勇者どうのこうのは身内間だけの秘密のようなもので、勇者達には魔王復活してるから討伐に協力して欲しい、じゃないと世界滅びるから!とは言ってます。要するに軽く騙しているというか、一番肝心なところは隠したままです。後々明かしていくと思います。

言葉が足りないなと思ったので補足でした。長々と目を通して頂いてありがとうございます。