47


「あらナマエ、交代の時間はまだ―――」
「そんな事よりミレーユさん弟さんが密航してました!」
「…えっ?」


戸惑うミレーユの腕を引っつかんで、ソロの何やってんだ、という声を聞き流して階段を駆け下りる。いやあ、深夜なのにまさかこんな事になるなんて思いませんでしたよ!


**


「テリー!」
「…嘘だろ、本物の……姉さんか?」
「良かった、無事だったのね!」


飛びついて抱きしめて、嬉しそうにミレーユが笑う。しばらく呆けたままだった引換け…テリーはおそるおそるミレーユを抱きしめ返した。ああ、麗しき姉弟の再開。二人共見た目が綺麗なもんだからとても絵になるから怖い。

スライムとドラキーもどうやら仲間と再開出来たらしい。テリーとミレーユの横、私が階段を駆け下りる音に気がついて起きてきたレックスが、スライムとドラキーを見て目を見開いたのだ。当然二匹も同じ反応で、次の瞬間にはスラお!ドラきち!とレックスが叫んで嬉しそうに二匹を抱きしめた。二匹も主(多分、その息子)に出会えて心底嬉しそうにピキーだのキーだのと鳴いていた。再開の光景ってこんなに眩しいのかあ…


「アレンもサマルトリアの王子様と再開したらああなる?」
「ならない」


即答だった。でも数泊置いて、「多分、ホッとして溜め息は吐くだろうけどさ」という返答が返ってきたので思わず口元が緩んでしまう。「ムーンは?」「多分、抱きつくだろうな」あいつは結構心配性だから、と苦笑いするアレンにナイン君を思い出す。


「……何やってんだろ、ナイン君とアレフとムーン」
「あいつらにはあいつらの考えがある。そう信じてやれ」


お、おおお…!なんという主人公っぽい発言。あっアレンは主人公だった。――こういうセリフを躊躇いも無く言えてしまうのは流石と言うべきか。「…ところでアレン、テレパシーは通じないの?」「意思疎通な。…悪ィけどあれ、多分街とか洞窟とか限定だと思うぞ」魔力高いやつは知らねえ、と言い切ったアレンに溜め息を吐いた。


―――サンディは、どういった目的でナイン君と天の方舟を駆っているのだろうか。


**


「姉さん、なんであいつは俺の名前を?」


目の前で青色の服に身を包んだ、――強そうな男と言葉を交わす女を指すと指差さないの、と柔らかく腕を掴まれて下ろされた。「彼女はナマエ。…勇者よ」「勇者?勇者はレックだろう」そういえばここはどこなんだ、みんなはどこに行ったんだと問うと姉さんは少し顔をしかめて、それから再び微笑んだ。


「話さなければいけないことがたくさんあるの。私の部屋にいらっしゃい」
「あ、ああ…それは構わないが」
「でも驚いたわ、どうしてレックスのお仲間と一緒にタルの中になんて」
「…っ、しょうがなかったんだ!この船には偶然、っ!」
「ふふ、あとで聞くわ。ほらレックス、あなたも到着まで寝なきゃ」
「はーい!じゃあスラお、ドラきち、僕と一緒に父さん…探そうね」


眠そうに目を擦る金髪のガキを姉さんがほらほら、と押して階段へ誘導する。そういえば俺に着いてきていたスライムとドラキーはこのガキのらしい。主人に会えて良かったな、お前ら。……だから主人のところに戻れって。どうして俺の頭の上で寝ようとするんだお前らは!っておいガキ!おまえまで俺のマント掴んで眠そうにするんじゃねえ!……ああ、頼む姉さん笑わないでくれ……分かったよ、こいつら部屋に連れてけばいいんだろ連れてけば!船の中なんてわかんないから案内ぐらいはしてくれよ?



煌く夜の帳の海で



(2014/01/28)

個人的にグっとくるのはテリーがいやいやながらも魔物と子供の世話をする図、そしてそれを見守るミレーユ姉さんです