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宿屋に戻るとナイン君とアレフ、…それにサンディの姿が無かった。袋に入れておいたはずのホイッスルも見つからなくて、私はしばらくの間愕然と部屋に座り込んでいた。どこかに行くなら私も付いて行くわよ、俺も行くぞ、なんて声を掛けてくれたミレーユとソロに見つかり具合でも悪いのかと心配されるまで時間が止まったかのようだった。


「ど、どうしよう!?サンディが、サンディが!あとナインとアレフが!ムーンが!」
「……サンディ以外はは二の次なのかよ」
「サンディがっ!あとホイッスルが!」
「ほ、ホイッスルはよく分からないけれど…船はあるんでしょう?」
「ルーラがあれば飛べるだろ」
「そうじゃなくてサンディがサンディがサンディがーっ!ムーンとナインとアレフは強いから心配してないけど!サンディがっ!」



駄目だこいつ錯乱してやがる、とソロの呆れたような声が聞こえたが私の心は落ち着かない。「どうしよう、何があったんだろう、置き手紙も何もない…!」悪い人間に攫われて売られでも…いやでも普通の人にサンディの姿は見えないはずで、じゃあナインとアレフとどこかに行っちゃったとか?何しに!?天の方舟で!?どこに!?というかムーンもどこに行っちゃったの!?あああ、事件に巻き込まれてたらどうしよう…!いくらあの三人が強いとはいえ、天の方舟にはついこの間まですごく強い魔物というか追加クエストのボスがいたのに!ああああ不安で不安でしょうがな、「お前あの妖精より強いの?」あっソロさんそれ言っちゃいけないやつです…サンディ本気出したら強そうだなんて……


「あれ、どうしたんですか、ナマエさん?」
「……ミネア。お前、ナインとアレフ、ムーンもしくはサンディから何か聞いてないか?」


見ての通りだ、と床に倒れ伏してサンディ…と呟く私を指差すソロ。見る気力がないとはいえ、視界に入るのだからそれやめてくれないかなあ…私真っ白な灰になっちゃう…ああサンディ、無事でいて…とぶつぶつ呟く私に流石のミネアも引き吊った笑顔――かと思いきやああ、と思い出したかのように彼女は小さく声を上げた。顔を上げると少し困ったような笑顔がそこに。


「ナマエさん、サンディから伝言です。『ちょーっとアレフとナインと出かけてくるワ。ちなみにムーンも一緒だから、アレンに伝えておいて!大した用事じゃないし、数日で戻れると思うから、アタシがいなくて寂しくても泣いたりしないでヨ?みっともないんだから。シャキっとしなさい!』…だそうで」
「ミネアそれ本当!?」
「ええ。四人が出かけたのはついさっきです。多分他の人には見えなかったと思うんですけれど――金色の列車に乗って空へ行かれました。ナインさんが笛を吹いていましたよ」


空……ということは神の国?もしくは世界樹の元?どちらにせよ、サンディは伝言を頼む相手は間違えなかったらしい。こういうところはしっかりとしているし、実はきちんと見る目があるんだなあと思う。ちなみにククールから伝えられるよりもミネアから伝えられた方がやはり信頼度が高いそんな事実。サンディがククールを避けたのはおそらく、妖精だというのにサンディもククールから口説かれていたからだろうか。

ちなみにククールはさっき、酒場でレナさんを口説こうとして返り討ちに合い、折られた心を慰めるのだとお酒をちびちびとやっていた。ゼシカは呆れていたけれど、付き合ってお酒を飲んであげていたからやはり仲間なのだなあと思う。しかしレナさんとウインクを交換していたのはあれどういう…いや気にすまい。とりあえず、レナさんの辛辣さは本当にやめた方がいいと思います。絶対あれ結婚とか出来無…「ううっ、」「今度は何だ」「や、急にものすごい寒気が…」レナさんの殺意を感じ取った気がする。このことを考えるのはもうやめよう。



「で、ナマエさん。アルスさん達がどこかに行くのだと薬草を買いに走っていましたけれど…?」
「ああ、お城の情報通とかいう、堅物瓶底眼鏡のお兄さんに時の水晶持ってこいって言われたから買いに行くんだ」
「時の水晶?」
「貴重な鉱石。とっても貴重な鉱石。お一つ5万ゴールドです」
「ごまっ…!?」


あ、ソロが固まった。いや大した値段じゃないと思うよ、…と思ってる時点で麻痺してるのかな?


お金の準備はばっちりです

(2013/12/05)

無意識のうちに関節キスをしてしまった9主と夢主である