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アレフとナイン、そしてサンディがどこかに出かけてしまったなんて知らぬまま、私はセントシュタイン城の王の間をきょろきょろと見渡していた。ゲーム画面で見るのとは違う、威厳に満ちた空間である。ちなみに隣には付いていきたいと言ってくれたアルスとレックス、そしてアレン。…レックスは王子様だしアルスだってキーファのとこに出入りしてただろうに、どうしてまた来たがったのか。アレンだって王子様だよね?不思議だと思いつつ、無意識のうちに私以外には同性の居ない(更に言うなら物理アタッカー+初心者で固められた)パーティを組むはめになり、…ええ端的に言うと気まずいです!イオナズン連発してもいいからムーンちゃんを入れてくれ頼む!気まずい!


「え、だってお姫様に話しかけられてナマエかちこちだったから、お城に慣れてないのかなって」
「僕も思ったんだ。一応実家がお城…まあお城の中に街があるんだけど、それでも慣れてるからナマエの心が軽くなればって思ってさ」
「奇遇だな、俺もだ。一応俺も王子だし」
「へえ、アレンは王子様なんだ!それで勇者かあ…」
「レックスもそうなんだろ?」
「ええと、お父さんが王様だから…そうなるのかも」
「いや父親が王なんだったらお前は王子だろ…あれ?じゃあアルスは?」
「僕は友達が王子でさ、よく出入りしてたんだ。だから慣れてる」


……以上、私が『どうして付いてきてくれたのか』と三人に問いかけたら返ってきた返答です。本当にありがとうございました!いや、だってしょうがないじゃない!?向こうの世界の日本でお城に常に出入りするってどんな立場の人間だ。私は至って普通の一般ピーポーなんですけれども。「え、何言ってるの?ナマエも勇者なんでしょ?」「勇者は一般人じゃねえよなあ」「死にそうなぐらい血流してたのに今歩けてるし」ねえ三人共それ褒めてないよね、遠まわしに化物だとか言ってるよね?…ああ勇者なんてそんなもんか……魔王と渡り合えるんだもんねそうだよね…!


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ショックに打ちひしがれている時間などないのだ。まず、王の間に通された私はアレフ抜きで昨晩の魔物の襲撃のことを洗いざらい話すはめになった。(当然、不思議な炎の話や黒い液体の事は上手く誤魔化した。フィオーネ姫は不服そうだったけれど、これはあまり広めるべき情報ではないと言うと納得してくれたから良しとする。)結果、私一人でも立ち向かえない強敵の出現、囚われてしまった仲間を助けるために協力を仰げる人間を探しているのだという、真実を本当の事柄で丸め込んだ言葉でなんとか王様から情報源を提供して貰えるようになることに成功した。

……ただし。


「にわかに信じ難いですねえ……え?どうしても必要?ならばこちらの条件を呑んで頂ければこちらも情報を提供しましょう。ええ、ギブアンドテイクってやつですよ。王様からの紹介ですし、特別お安くしときますよ?初回のみ値を張らせて頂きますが。そうですねえ………ああ、そうだ!―――時の水晶で手を打ちますよ!」


紹介された情報源、王宮の図書室の片隅で瓶底眼鏡を光らせた嫌味な男は、そんな事を言い出してきたのである。まさか情報一つ得るのに時の水晶って…!時の水晶があったら進化の秘石が作れるんですけれども!強い武器作れるんですけれども!最強装備で魔王なんてぱっぱと倒しちゃえそうなんですけど!

とりあえず渋々時の水晶を袋から取り出そうとしたところ、一つも入っていないことに気がつく。そうだ、全部使っちゃったし何よりそんなに多い数持ち歩かないんだあんなもの…!お金はある。買いに行かねばならない。が、道のりはかなーり遠い。方舟を手配すればなんとか…でもあの高台にいる、強いモンスターとかに遭遇したらどうしよう!?あんなのに黒い液体ひっついちゃったら今の私じゃどうにもできないぞ。……おそるおそる、背後を振り向くと「時の水晶?」「聞いたことねえ」「めったにお目にかかれなさそうだけど…」と会話を繰り広げる王室組(アルスだって実際は似たようなものだ)がいた。よし、援護してもらおう!ついでに勇者の剣技をここできちんと目に焼き付けよう。さあておつかいミッションの開始です!


クエスト000?

(2013/12/02)