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※アレフ視点


「あれ、ナマエは?」
「ナマエ…でしたらセントシュタイン城です」


おはようございます、と声を掛けてきたのはナイン。天使の羽(恐らく、俺達異世界の存在か同族にしか見えないのであろう)を持っている、多分俺と年はそんなに変わらないやつだ。人間ではなく天使なのだろう。というかこいつ、未だにナマエのこと呼び捨てするのに躊躇ってんのか。シャイなんだろうかと思いつつ、ナインの向かいのテーブルに座ることにする。しかしナマエはあんな大怪我でセントシュタイン城?セントシュタインってのは確かこの国の名前で……「は?」え、何あいつもうバレたの?


「今朝方フィオーネ姫がこちらを訪ねて来たんですよ。門が壊れているのを調査されていたようで、まあその…ナマエ様も何か知らないかと」
「フィオーネ姫?」
「この国の王女であらせられる人物です。幸いナマエの話は通じたようで、今は情報収集のためにお城へ向かったというところです」


お昼前には戻ると言っていました、と言って口元にカップを運ぶナイン。「アレフ、ひとつ聞きたいのですが」「何だ?」俺の目の前にも朝食が運ばれてきたから、手を合わせながら返事をする。「魔物に襲われたと聞きました。ナマエにどうして怪我をさせたんです?」………おおお、温度が一気に氷点下まで…!


「いや、俺が助けに入った時には既にナマエは怪我をだな?」
「回復魔法の一つぐらい使えるのでは」
「…………使えるけどあいつの体力と傷を全開出来るレベルじゃねえよ」
「ナマエはまだ未成熟な勇者なんですよ!そんな事、……あるんですか?」
「あった。ちなみに俺はベホイミを五回掛けた。傷のみに集中したけど全開しなかったし体力も全然回復してなかった。あいつ動いたけどな」


氷点下の温度をなんとか常温に戻すべくひたすらに言葉を並べると、ナインが纏っていた空気が少しばかり和らいだ。「そ、そう…ですか。いえ…いや、そうか。体は元々――……」何やらわけのわからないことをぶつぶつと呟くナインに疑問を抱く。「なあ、お前はナマエとの付き合いが長いんじゃねえの?」少なくとも俺よりは長いはずだ。俺と出会うより前にナインはナマエと出会っていたのだから。


「いえ、実はアレフとそんなに変わりません。僕はその、――言わばナマエのナビゲーターとなる役割なんです」


――ナインの返答は以外なものだった。


**


※ナイン視点

目の前でアレフが驚いたと言わんばかりの顔をする。そう、セレシア様から伝えられたのだ。サンディが彼女の相棒だとし、勇者たちを仲間とするなら、僕はナマエとその仲間たちを導く存在。セレシア様はそう言い切った。けれども僕は何をしていいのか分からない。当面はこの世界で、強い体のまま弱体化してしまったナマエに強さを身につけさせることが良いだろうと自分の中で判断は下したから、(本当ならば今日この日から)自らナマエ様に剣の稽古をしようと思っていたのだ。

それが見事こんな事になってしまって、置いていかれているのが丸分かりで。何の役にも立てていない風があるのに、彼女が怪我をしたという事実に苛立ってアレフに八つ当たりをしてしまいそうになり――いや、よそう。確証は得た。ナマエの体は明らかに、"天使である、この世界の"ナマエのものだと証明出来たのだから。


「じゃあ、"本当の"ナマエの魂か何かはどこに行っちゃってんでしょーネ」
「サンディ…」
「うわ!?おま、妖精っ!いきなり出てくんじゃねえ!」


騒ぎ立てるアレフにうるさい!と叫ぶサンディを見つめた。…本当に、サンディの言うとおり、魂はどうすることで取り返せるのだろう。僕個人は今、体に入っている異世界から来たというナマエの事が心配でならない。世界を救った後、本物のこの世界の勇者を救ったあと、その魂は体に戻るのだろう。一つの体には一つの魂。これは絶対だ。

じゃあ、―――体を失った魂は?

元の世界に帰ることは多分、セレシア様達が復活さえ出来れば可能だろう。けれど現在、神様達は皆、オーブに力や生命力をはじめをした全てを蝕まれている。「アタシの我儘かもしれないけど、……愛着が湧いちゃったのヨ。どっちも、」失いたくないの、と真剣な目でこちらを振り向いた小さな妖精に頷いた。時間を稼ぐ"仕掛け"を作ろう。


「なあ、よく分からんが何かするのか?」
「ええ。そうですね……ナマエに、サンディと天の方舟を借りると伝えて頂けますか」
「俺にはそれしか出来ないのか」
「……それは、どういう?」
「いやホラ、怪我してるけど……まあ、あいつの変な力についても知りたいし、協力出来るんなら協力したい」
「そうヨそれヨ!アレフ、あの草原の焼け具合はアンタなんでしョ!?」


聞きたかったのヨ!と目を輝かせて大騒ぎを始めかけたサンディの口を塞いだ。すみません、とラヴィエルに頭を下げる。苦笑したラヴィエルが頷く。これでナマエへの伝言は大丈夫だろう。「アレフ、本当に良いんですか?」「良いって。ところで何日ぐらいここを開けるんだ?」「そうですね、一日か二日程で全て終わるでしょう」


ひみつのさくせん

(2013/10/23)

1&9+妖精コンビ結成!