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「ナマエーっ、フィオーネ姫が門の事件の事で相談があるって……ナマエ!?」
「あああああリッカ!これはその、違うの!」


――速攻バレました。


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「ナマエ様、その大怪我は!……っ、まさか…!」
「ちが、違います!違いますからね姫!?破壊欲求なんてありませんからね!?」


階段を下りていくなりすぐさまフィオーネ姫ががたりと椅子を揺らして立ち上がった。リッカの宿屋の質素な椅子でもフィオーネ姫が座れば様になるのが流石王女様だなあと思う。それはともかくだ。目を見開いた王女に即座に否定をしてしまって、あ、まずいと思い至った。すぐに否定するなんて誤魔化していると捉えられるんじゃ、


「そうではありません!まさか、――まさか魔物が襲ってきたと…?」
「え、あ、あ、ははは…まあ、そういうことになる、かなあ」
「では平原が一部、焼け野原になっていたのも」
「……私のせいです」


――捉えられなかった!そういえばゲームの中の私はそりゃもう無双の勢いで世界を救ったんでした。9をプレイした人ならば分かると思う。ラスボスの手応えの無さ…上級職でさっくりと倒してしまえたラスボスが最終的にはリア充になってしまうというやるせなさ。しかもあんな可愛い女の子と。あんな可愛い女の子と。大事な事なので二回言いました。えっ、今はどうでもいい?

とにかく、私(というか主人公であるゲーム内の自分)は予想以上に王女様の信頼を勝ち得ていたらしい。レオコーンの件もそういえばあったしね。飲み込みが早い王女様はすんなりと私の言った事を信じてくれた。確かに名のある冒険者で通っている勇者様がこれだけずたぼろになっていればそりゃ信じてくれるだろう。正直体の節々はまだ痛いし、包帯からじんわりと血が染み出ている部分もある。痛みは魔法のせいで抑えられているから問題はない。

ちらりとレナさんを振り返ると、少し怪訝そうな顔をされた。そ、そんな顔しなくてもいいのに…裏から話しかけてもあんなツンツンした言葉を投げてくるそんなレナさんに何人が泣かされたというのだろうか。「…何よ」「いえ何でもないっす」即座にそんな言葉を返してしまうぐらいレナさんのツンツンオーラは近寄りがたいです。彼女がデレてくれる日は来るんでしょうか期待したい。

―――とまあ、冗談はここまでにしておいて。

貯金なら確かかなりあったはずだ。口座の残高はかなりのものだったと自負している。「あの、フィオーネ姫…お、お金ならあります」修理費に使ってください、と頭を下げるととんでもない!と返された。えっ何がとんでもないんでしょう姫様。私別におかしな事は言ってないと思うんですけど…「修理なんて、そんなもの後で良いのです」「へ?」思わず素っ頓狂な声が漏れた。フィオーネ姫?


「ナマエ様、あなたほどのお方がそのようになってしまうなんて……今、この世界に何が起こっているのですか?」
「う、」
「しばらくは本当にずっと平和で、あなたが平和をもたらしてくれたのだと私は密かに思っておりました。けれど、最近の様子を聞くとあなたがこの国に顔を出す以前より、……魔物の活動が活発になっていると。何より、見た事もない魔物がこの地を徘徊していると聞きます。例えば、―――黒き体を持つ魔物」
「っ…!」


黒い体の魔物。

降ってきた黒い雫に体を染められた魔物は普通の魔物よりも遥に大きな巨躯と、力。その魔物は体の一部分に核を持っていてそれを破壊すると真っ黒な煙や液体が抜けて、普通の魔物に戻る。あるときは空から降り注ぎ、触れた魔物を協力なモンスターへと昇華させる。

それが"この世界の異変""暗黒のオーブ"に関わっているのは明白としか言い様がなかった。RPG脳はそう告げている。そしてここはRPGの世界。多少メタ推理だけれどもあの嫌な波動、と言えば良いのだろうか。中二臭いけれども本当に、あの種の液体に触れた魔物からは嫌なものが発せられる。――息ができなくなるような。

でもそんな風に感じさせないのが、魔物と対峙した時に私から吹き出す不思議なエネルギーだ。……あれは、本当に何なのだろう。"この世界の私"だってきっとこんな力は持っていなかった。特別にしても、私以外に働いたアレフの件がある。分からない事だらけでどうしようもないけれど、それでも目の前には情報源があるのだ。


「フィオーネ姫。各地の情報をすぐに伝えて貰える人は居ますか?」
「それなら一度お城にお越し下さい。門の件、父にも事情を話さなければ」
「う、お手柔らかにお願いします…!悪気は無かったんです…!」


王家の協力

(2013/10/23)

姫から滲み出る隠しきれない偽物臭がやばい。