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腕を再生させたローズバトラーがセントシュタインの入口にとどまる私達を睨みつけた。――私の中に、もう恐怖する心は無い。ソロの時もそう思ったけれど、誰かと一緒って本当に気持ちが楽になる。アレフはずっと一人で戦ってきたんだよなあ…尊敬する。


「おい、何ぼーっとしてんだ」
「ん、なんだかね、気持ちがすっごい楽なんだ」
「お前いきなり気楽になったな…」


呆れたような声でさえ心地良い。空回っていたものが、空回らなくなったみたい。今なら何か出来そうな気がしてたまらないのだ。……いや、気がするじゃない。今ならきっと"出来る"。確信が襲ってきて思わずぶるりと身震いした。


――ブルドーガの時に感じた、不思議な力がまた、体の中に。


ソロの時と違って流れ出すのではなく、内側に溜まっていくそれをどこかに解放したくてたまらない欲求が湧き上がってくる。でも、これはどうやったら解放出来るんだろう?そわそわと周囲を見渡すとアレフに頭をはたかれた。「おい、さっさと終わらせるぞ」お前が気楽なせいで眠気がきた、と私より呑気な事を言い出すアレフに拳を突き出した。


「よろしく」
「…おう」


無駄な言葉はいらない。お互いに剣しか持っていない丸腰状態で、揃って相手ににやりと笑って見せる。アレフに負けないぐらい、頼もしい勇者に私はなりたいと思う。


「……さ、あんなの倒してさっさと戻る、ぞ!」
「うん!」


アレフの掛け声と同時に地面を蹴った。普段よりも早く動く足。「っ、うわ!?」――刹那、ふわりと浮いた体に思わずアレフを振り返った。これって…魔法?振り向いた先のアレフの瞳には行けよと言わんばかりの目が不敵な光。上等だ、やってやろう!

私を突き刺そうと目前に迫っていた触手がするりと空を切る。浮いた体はローズバトラーの真上。いけ、とアレフの口が視界の隅で動いた気がする。けれどその声さえ聞こえない。ゆらりと揺れたローズバトラーの頭が私の真下に来る、そのタイミング。


――剣を振り下ろすのに躊躇う暇など与えられない


ざしゅん、と音が響いて青緑色の液体が飛び散った。ギュアウギュオウギェアアアア!!!と響くのはローズバトラーの怒りの声だ。魔法力で浮いたまま咄嗟に耳を抑えると、強い力で襟首を引っ掴まれてぐいいっ、と引っ張られる感覚。瞬きをする一瞬でローズバトラーとの距離が開く。気配を感じて横を仰ぐとアレフが剣を構えていた。「…あいつ、かなりキてるぞ」怒りに狂った声だ、と呟く声と同時に私を取り巻いていたアレフの物であろう魔法力がしゅん、と消えてなくなった。それをアレフは炎に変えて剣に纏わせた。轟々と燃え盛る剣に目を見開く。

「それ…!メラが、剣に?」

私は驚くばかりだが、メラを剣に纏わせるなんてどれだけのセンスを必要とするのだろう。猛る炎を纏った剣を見つめ、感嘆の溜め息と共にアレフの顔覗き込む。――戸惑っているけれども、自信に満ちた瞳。


「……出来る気がした」
「え?」
「今なら、"こういうこと"が出来ると思ったんだ」


こんなの初めてだ、とアレフが小さく呟いた。「力が流れ出て、炎のイメージに変わった」……私のギガブレイクの時と、似たような感覚を言葉から感じ取る。「ナマエ、見てろ。…下がって、目に焼き付けとけ」その言葉に反論はしなかった。似たような感覚を私は知っている。

アレフは剣をだらりと垂らしたまま、傷を蘇生しようと躍起になるローズバトラーの元へ踏み出した。一歩、一歩とその動作は緩やかなのに重い。身守る私には確信があった。――アレフはきっと、今、とても巨大な力を得たのだという確信が。どうしてそれが自分の中に生まれたのか分からない。が、それは感覚として自分の中に生まれたのだ。ぴりぴりとしたオーラがアレフから放出されている気がする。アレフの持つロトの剣が纏う炎が巨大化し、煉獄の帯となって剣を、腕を、アレフを包み込んでいく。



「なあ、バケモノ」


――最高の気分だよ、俺。

ローズバトラーに投げたのだろう言葉は、どこか優しさを孕んでいた。



暗闇を照らすそれは、まるで太陽のよう



(2013/09/08)

主人公の能力はまだ先で書く予定ですが、同じものですが種類があります。自分に影響するものと、他者(パートナー・共闘者)に影響する二種類はここまで(ブルドーガ戦含む)で公開したので補足でした。