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「……なんでいんの?」
「………いや、俺が聞きたいんだけど」


ちょっと苛立ってたのもあって、思いっきり教会の扉を蹴り飛ばしたらソロがいました。


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「すいません!本ッ当にすいません!」
「いやいやナマエさん、まさか君があんな乱暴な…何があったと言うのかね」
「見知らぬ商人に買うはずだったキメラの羽を買い占めされてて苛立ちでつい」
「ふむ、では懺悔として受け止めようではないか」
「おお神よ!我の行動を許したまえ!……ところで修理費っておいくらです?」
「2000G程になるか…」
「ぼったくりじゃナイ!」
「え、そう?そんなに高くないじゃん。じゃあ神父さん、支払いこれで。本当に申し訳ありませんでした」


お金の力とは偉大である。きちんと腰を折って謝罪すれば、ほら。「い、いや良いんだよ。人は誰しも苛立ちを募らせる生き物だ」少しばかり震える手で私が差し出したいくつかのグビアナ銀貨が詰まった袋を受け取る神父さん。まあこんな年頃の女の子が持ち歩く金額じゃないわな。確か身代金とかで5000GなんてーってYで言ってたぐらいだし、2000Gも結構貴重なのかもしれない。まあ別にお金は銀行に貯めてるから出し惜しみは無いな。うん、本当にごめんなさい教会の扉さん。八つ当たりでまさか蹴り壊せるなんて思わなかったんだ!


「ねえサンディ、私って何でこんな無駄なところで謎のパワー発揮してるんだろ」
「知らないわヨ」


二人して首をかしげる。うん、どうしてこうなった。「では、ついでに神に祈りを捧げていくかね?」「あ、お願いしまーす」神父さんは私の…というより、天使見習いの方のナマエと面識があるらしかった。そりゃあそうだろう、リッカの宿屋があるからセントシュタインは常に冒険の拠点だった。毎日通えばそりゃあ面識も出来る。祭壇の前に膝を付き、手を組んでセレシア様に祈りを捧げた。「……ねえ、どうすんのヨ」ちょんちょん、と祈っている私の頬をつついて邪魔をしてくるサンディ。

渋々目を開けると、非常に気まずそうな顔をしたサンディがちらちらと私とソロ達を見比べていた。「ドン引きされてるワヨ、アタシ達」「うん、予想はしてた」いや本当、正直ここに居るなんて誰も予想しませんって。してませんって。「……セントシュタイン内にどんだけ集結してるの?」「知るか」確かにとっても栄えている国だけれども。

祈りを終え、神父さんが書物にさらさらと何かを書き込んでいるのを見届けたあと、とりあえずはソロ達に向き合う事にする。正直ソロと目を合わせるのは気まずいので、その隣に立っていた占い師に目を止めた。目が合った瞬間、引きつった笑いを浮かべてぴくりと肩を揺らされたなんて私は信じないぞ!信じない!


「……ええっと、初めまして。ナマエと言います」
「ど、どうも……」


ああこれ完全にドン引きされてる!思わず頭を抱えたくなるが、これ以上の悪印象を植え付けてしまったらもう完全に取り返しがつかなくなりそうだ。「ちょ、ちょっと焦ってて、それで……は……はは……!」言うなればだいたいソロのせいであって―――って、あれ?ミネアの隣に立ってるのはZの主人公でしょう?鏡に映っていたグランバニアの王子は?X主の息子は?


「なあソロにーちゃん、あの人が持ってるのって…!」
「……天空の剣だな」


きょろきょろと周囲を見渡すと、ソロの背中の方からぴょこっと金髪が飛び出してきた。きらきらとした目で背中に背負った天空の剣を見られている。ああ、よかった。ちゃんと三人いる。胸を思わず撫で下ろすと、自然と動き出した足が"彼ら"の元へと動き出す。「待ってください!」――足が止まった。声を少し張り上げたのはミネアだ。


「…………あなたは、この世界の勇者なのですね?」
「"今は"、そういう事になっています」
「私やソロさん達がここに居る理由を、あなたは知っている?」
「うん。あなたたちを探してたのは他でもない。……一緒に来て欲しいの」


唐突にこんな事を言われても戸惑うだけだろう。実際、助言を求めてソロを振り仰いだミネアとグランバニアの王子から目を逸らした。―――もっと、気になる人がいる。
この教会に入ってきてからというもの、ずっと私を見つめている"彼"の事だ。


「――あなたの名前は?」
「…………アルス」
「ええっと、アルス。―――私の顔に何かついてる?」
「ついてない、けど……えっと、聞きたい事があるんだ」
「聞きたいこと?」
「…うん。あなたが本当に僕の探している人なら、知っているはず」


――どういう事なのだろう。「……」知っているはず、と言ったきり黙り込んでしまったアルスことZの主人公を見下ろした。私よりも小さな彼は、言葉を発するのを迷っているらしい。ひそひそと話をしていたソロ達もこちらを振り向いていた。アルスは、何を言い出すというのだろう。

意を決したように、アルスがゆっくりと顔を上げる。「分からなかったら、分からないって言って欲しいんだ」その顔はやけに真剣で、思わず私も眉を潜めた。体中に少しの緊張が走るのが分かる。人のまばらな教会の内部で、一体何が問われるというのか。


「ナマエさん、」
「……なあに?」





「――――僕の手の甲と腕には、何がある?」




さて、ここで試練です

(答えるチャンスは一度きり)

(2013/06/29)

試される主人公。プレイ済みの方ならもうご存知ですよね。
それにしてもやたらソロばっか贔屓してる気がするのは何故