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「すまないねえ、ついさっき大量にキメラの翼を買い込んでいった商人がいてね、今日はキメラの翼は売り切れなんだ」


舐めくさってんの、と言い出しそうになったサンディの口元を抑えて道具屋を飛び出した。「最悪ネ」「今回ばかりは本当にそう思う」運が、タイミングが悪すぎた。「どうするワケ?今アンタの手持ちにはその貰ったヤツしか無いわけだけど」基本ルーラで移動するから私はキメラの翼を買い込まない派なのである。そう、特に\だとシュタイン湖の近くで拾えるから…「あ!」そうか、拾えばいいんだ!「とか思ってんじゃないでしょーネ?」「えっ、今何で心読んだのサンディ」「ルーラを覚えようって気は無いのねアンタ」「まず呪文の概念そのものが分かんない」だって今まではボタンかちかちー、それだけで呪文発動でしたもん。あれ?無性にドヤ顔をしたくなるのは何故?


「ウザイ」
「言うと思った」
「読んでんじゃないワヨ」


自分でもウザイと思ったもん実際。「じゃあどうすればいい?」「事は一刻を争うのヨ?」とりあえず灯台は元暗し。セントシュタインの教会を覗いて、「それからベクセリアに向かうわヨ!」「おうよ!」「ベクセリアまでキメラの翼で飛んで、ベクセリアでキメラの翼を買うのも忘れないように!」「ういっす!」ここまで来るともう体育会系のノリである。振り返って二人でぎろりと睨んだのはセントシュタインの教会。さあ突撃だ!ここに居たのに見逃してたーみたいな展開だけは絶対に嫌だからな!


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「ミネア、他のやつらは」
「分かりません。私も目を覚ました場所はここじゃなくて……ここに来るまでに立ち寄った小さな村で、この国の存在を知ったんです。それにセントシュタインと聞いた時に水晶玉にソロさんが映ったように感じて」


ミネアの直感はよく当たる。そのおかげで再会出来たのだからそれは本当に喜ぶべきことだ。この国に連れてきてくれたナマエに感謝しよう。ここからは俺とミネアの二人で他のやつらを……ライアンやアリーナ達を探さなければいけない。「ところでミネア、この二人は?」今の俺の顔はさぞかし訝しげなのだろう。二人の少年――まだガキと言うべき年齢の二人をじろりと睨むと緑色の方(色被ってんじゃね…?)は困惑気味に笑い、金髪の方は俺と同じく訝しげな目で睨み返してきた。なんだこいつ。


「勇者ですよ、ソロさん」
「……は?」
「こちらがアルス。そして、こちらがレックスです」
「おい待てミネア、……勇者?説明し、」
「ソロさん、聞いてください」


凛と響くミネアの声。質問をしようと開いていた口、そこから俺の発する音が途絶えた。「……なんだよ」もったいぶらずに言えよ、と目だけで発言の続きを促す。





「レックスは――――ソロさん、あなたの子孫です」


―――こんな返答が返ってきたんだけど、俺はどうすればいい?


「「はあああああああああああ!?」」
「教会では静かにしてくださいね、二人共」


諭すようにタロットカードが飛んできたので思わず口を噤む。……は?子孫?血の繋がり?要するに、俺は今後誰かと結婚すんのか?「え、ちょ、はあ!?ミネアさん!?このにーちゃんと僕に血の繋がりがある!?」「ミネア、冗談なんだろ?ほらジョークだって言えよ」顔を揃えてミネアに迫る俺と…レックスとやら。「薄々感づいていたんじゃないですか?」…何に?


「レックスも、ソロさんの持っているものも――同じ天空の武具ですよ」
「っ、そんなわけない!これは世界に一つしか!」
「どちらも本物です。………その輝きは、見れば分かるでしょう?」


天空の装備は特別なもの。それが同じ時間軸に二つ存在することなど有り得ない。


「私も最初は信じられなかった。でも……多分、時間軸が歪んでいるんだと思うんです。この世界は私たちのいた世界じゃない。別の時間に存在する世界」


無かったはずの出会い。思わず自分の腰あたりに頭のあるレックスを見つめた。レックスも俺も見上げていた。その目になんとなく不思議な懐かしさを感じる。


「……ソロだ」
「レックス、です」
「なあ、お前も"天空の勇者"なのか?」
「……うん」
「そうか」


俺もだ、と呟いてつんつんと跳ねるレックスの黄色い髪の毛をぐしゃぐしゃとかき回す。「や、やめてよ!」「なあ、お前の父さんと母さん、どっちが俺の血を継いでんだ?」「――お母さんだよ」「…そうか。この世界にはいるのか?」「うん、多分。みんなで遊んでたらいきなり目の前が真っ白になったんだ」みんなどうしてるかな、と勇者にそぐわない年齢相応の表情を見せるレックス。「湖の近くに倒れていた私を介抱してくれたのはレックスだったんです」「ミネアさんにはなんだか、懐かしいものを感じたから…」二人はそんな出会いを果たし、ミネアはレックスの天空の武具に目を止めたのだという。少しの会話の後、俺たちの生きていた時代の何百年も後にレックスが生きていると知ったミネアはやれるだけの占いを全て試した結果、俺の子孫がレックスだという結論に行き着いたのだという。そしてミネアとレックスが情報を求めて立ち寄った村で、村の井戸に引っかかっていたと騒ぎになっていたアルスを発見。一目見ただけでピンときたミネアはレックスと共に騒ぎを収め、アルスに同行してくれるように頼んだらしい。


「……どうして、この国なんだ?」
「私たちがこの世界に来てしまった理由を、知っている人がここに居るはずだから」


俺の質問に、ミネアは静かに目を閉じた。「それは、」もしかしなくてもナマエのことだろう。何故、何故ミネアがナマエを?「ソロさん、気が付きませんか?」嫌な風にぞくりと粟立つ肌。「―――邪悪な気配。それもとてつもなく強大な」この世界を中心に渦巻く憎悪のような酷く醜く、そして引き込まれたものを二度と光ある場所へ返すまいとでも言うような――「闇、と言えば良いのでしょうか。普通の魔物に混じり、私たちを襲ってきた魔物の一体が丸い宝石のようなものを額に埋め込んでいたのです」その魔物の力はまるで、魔王の城に巣食う魔界の魔物のように強かったという。「あれは人の世界を歩いている魔物とはレベルが違う」


「私は、なんとかしたいと思っています」


ミネアの声が教会の高い天井にこだまする。――同時にばあん!と勢いよく教会の扉が蹴破られた。もう一度言おう、蹴破られたのである。「な、何事だ!」神父の慌てる声を聞きながら、ゆっくりと開かれた扉の方を見つめた。薄暗い教会の中を扉から溢れた光が照らす。



―――現れたのは、何故か顔を引きつらせて笑うナマエだった。




わりと早い再会



(2013/06/23)

アルスが空気過ぎて私つらい
それ以上にミネアさんいっぱい喋らせられて嬉しい