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私は見事に詰んでいた。


「さあ、答えて貰おうか」
「ここはどこ?あなたはどこで私達の名前を知ったの?エイトは?」
「姫さん達もだ。大体この世界は何なんだ?俺達を元の場所へ帰せ」
「答えによるけど、容赦しないわよ」


ムチで体を捕らえられ、首元に突きつけられたのは細身の剣。レイピアだろうか?……じゃない!何この状況!ブルドーガを目の前にした時よりも命の危険を感じるピンチに冷や汗しか流せない。「早く答えて」「あまり乱暴な事はしたくないんだ」まあ、うん。そうなるよね……私と同じだとしたら、いきなり目覚めて異世界ですよ?混乱しない方がおかしい。いやでも混乱したからって命を脅されるのは勘弁である。

……いや、第一ククールもゼシカも[のキャラなんだから仲間になるよね?いやなってくださいお願いします。仲間になる予定のキャラクターに殺されるなんて冗談にならないよ!「…ププッ、いい気味」「サンディ何で助けてくれないの!?」「自分で頑張りなさい?勇者サマ」完全にバカにしているその表情がイラつくんだけどどうしよう。私サンディのために勇者になったんじゃなかったんだっけ。「……"勇者"?」突き出された剣が少し揺らいだ。が、ムチの締め付けは緩まない。

そうだ、私勇者だった。だったらまあ、こんなところで殺されるわけにはいかないな。雑魚敵ならともかくここで僧侶キャラに殺されるわけにはいかない。仮にもレベル99…?弱い時でも体力だけは無駄にあるみたいだし…?剣が突き刺さったぐらいじゃ多分死なないよね。――と、考えると余裕が出てきた。「あのー」「黙りなさい」えっ?ゼシカさん酷くないですか?喋れって言ったり黙れって言ったり…悲しくなってくるぞ。


「……えーと、とりあえず落ち着いてくれませんか?あとこれ離して」
「あなたが魔物ではないという保証がないわ」
「魔物なわけあるか!これでも勇者だ!」
「勇者?………ククールどう思う?」
「……言っちゃ悪いが、弱そうだな」
「私もそう思うわ」
「そろそろ泣いてもいいのかなー」


ええそうですよ!どうせあの変な力の無い私は弱いですよ!スライム以下ですよ!――って、他のみんなはともかくナイン君はどうして助け舟を出してくれないんだろうか。……って、そういえばサンディ以外のみんな喋らないね?少しばかり嫌な予感を感じながら背後を振り返ると、酒場でくつろぐアレフとアレンとムーン、隅でリッカが運んだ料理(ミートソーススパゲッティーみたいだ。美味しそう)を食べるソロ、そしてラヴィエルと静かに言葉を交わすナイン君の姿が。「――で、黒い玉のようなものを額に抱いた魔物達が――」「なるほど、それが暗黒のオーブの――」どうやらラヴィエルはナイン君からキサゴナ遺跡での報告を聞いているらしい。切り替え早いな!とりあえず誰か助けろ!「話を逸らさないで」「逸らしてないよ!」「嘘!目が動いているわ」ゼシカ嬢は厳しい。いやー……しょうがないんですって。そんな大きく揺れるものは初めて目にしたんですよ私。目で追う気持ちを許して欲しいな。だって"あの"ゼシカさんの胸ですよ?「……まあ、悪いやつじゃないかもしれないな」「ククール!?」何やら私を優しい目で見下ろしながら剣を下ろしたククールにゼシカの声が飛ぶ。えっ、私どうやってククールの警戒解いたの?解せぬ。しかし刃物が目の前にあるという緊張感が抜けてかなり気が楽になったのは事実だから今は気にしないようにしよう。


「えーと、簡単に説明すると……私もあなたたちと同じように、この世界とは違う世界からここに来たの」
「……おい初耳だぞ」
「ソロには今から説明するつもりだったんだってば!」


ソロの方を振り返ると、さっきまでお皿に盛りつけられていた料理が消えていた。「えっ、食べてたんじゃなかったの…?」「腹減ってたんだよ」どれだけ減ってたんだ。「昼飯時前だったからな」「あー、なるほど」そりゃぺろっと食べちゃうよね。ミートソースのスパゲティなんて、ソロぐらいの年の空腹男子には霞も同然なのだろう。戦って疲れてたってのもあるだろうしね。


「……ねえ、」
「うわあああああはいはい!私が知っている限りの事を二人に話すよ!話しますよ!だから締め付けるのやめてお願い!」
「よそ見するからよ」
「ううっ……部屋まで着いてきてくれる?あ、その前にこの拘束解いてくださいお願いします……刺が食い込む」
「どうするんだ?ゼシカ」
「………分かったわ」
「よかった!」


思わず安堵の声を漏らすと同時に、するするとムチの拘束が解ける。「ほらソロ、部屋に行こう!今すぐに!」「っな、何を言い出しているんですかナマエ様っ!?」「ナイン君は何を聞いてたの!?この二人とソロに事情説明するだけだよ!あ、ナイン君も来てよ。ついでにラヴィエルも」「私も、か?」「俺がエスコートを…」「い、いや、遠慮しよう」ラヴィエルには多分、男性経験がないんだろうなあと私は推測した。


**


「あ、あれー?ナイン君とソロは分かるけど何でアレフとアレンとムーンまで?」
「いいだろ、別に。俺はナマエの部屋が見てみたいだけだけど」
「俺はムーンが行きたいっていうから」
「ほら、ナマエの今の服装をなんとかしたいと思って」
「要するに今の私の服装はダサイと?」
「防御力が限りなく低い上に初期装備じゃない。腕輪と武器は除外するけれど」
「ううっ、反論出来ない!」

「……賑やかね」
「俺は嫌いじゃないぜ、こういうの」


エレベーターは人数制限ぎりぎりだった。階段は面倒だからと選んだエレベーターだったのだが、階段を使えば良かったと後悔する。だってギュウギュウ詰め…!次からは絶対に使えないなと思いつつ、サンディが押した『4階』のパネルのランプを見つめた。私の部屋は四階だったのか、なんて怪しまれるセリフは言わないように意識していないとまたうっかりをやらかしそうで本当に怖い。


「ほら着いたわヨ」「うわっ!?」開いた扉から溢れ出すように、まずはアレフが押し出された。その拍子に兜が脱げて「あ、」ころころと廊下を転がった。「わ、アレフって黒髪だったんだ」「…それが何だよ」「ううん、何でもない。拾ってくるよ」「お、悪いな」剣神の主人公ではないから別人なのだろうかと思いながら、エレベーターから押し出された人二号な私は兜を追いかけた。

兜はがらんごろんと音をたてながら、以外にも長い距離を転がっていく。「ちょ、待てってば―――うわっ!?」こけた。アレフの兜のツノ部分を掴もうとしてバランスを崩し、見事に床と衝突した顔。「あづつ……」痛みに顔をしかめながら体を起こそうとすると、目の前に白くて細い、とても綺麗な手が差し出された。思わず顔を上げる。





「―――勇者様、大丈夫?」


窓から吹き込んだ風に、彼女の金髪がふわりと揺れた。



「……ミレーユ?」
「私の事を知っているのね。遅いから心配していたのよ」


そうか、私を訪ねてきたっていうのは彼女だったんだ。夢占い師だから、きっと少しは事情を理解してくれているのだろう。「ありがとう、ミレーユ…さん」「ミレーユで良いわ。――詳しい話を聞きにきたの」あ、やっぱり細かい事は分からないんだ。でも敵意は無いし混乱している様子もないから話しやすいな。落ち着いている人がいるというのは有難い。「部屋に入って、ミレーユ。ゼシカ達もみんなも。私が知っている限りの事は全部話すから」



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(集い始める戦士たちと)

(2013/06/08)

ラヴィエルさんに男性経験無さそうだなっていうのは星乃の個人的な見解です。イザヤールさんはガードが固そう。あと[組の口調がちゃんと掴めてるか心配です。[は浅くしかやってないので…