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「ぎ、ギガブレイク!ギガブレイク!ギガブレ……イ……ク……?」
「……………」
「…………………」
「滑稽ネ」
「サンディのばか!わかってても言わないでくれる優しさが欲しかった!」


滑稽だということは自分が一番よく分かっているのだ。「……なんでだろ」はあ、と溜め息を一つ零して天空の剣を背中の鞘に収めた。銀河の剣よりは軽いけれど、こんな大きな刃物を扱っていた数時間前の自分が信じられない。――あれは、なんだったんだろう?

巨大な敵を倒すと言葉に出し、向かい合った時不思議なエネルギーが湧き上がってきた。"勇者"を意識した瞬間、自分の中になにか――新しい何かが芽生えた気がしたのだ。それが何かは自分でも掴めないし、表現にしても抽象的過ぎて分からないけど……とにかく、私はブルドーガと戦っているときに勇者としての何かを得ていたのだ。

一人でスライムと対峙した時。背中に守るべきものがあったはずなのにさっきみたいな力は出せなかった。今回は……一緒に戦う"勇者"がいた。それがもしかして私の爆発的な力の飛躍に繋がるのだろうか。いえ、もうそうとしか考えられないです。ああもう!セレシア様はどうしてこうも大事なところを説明してくれなかったの!?というか、今更だけどこれ私負けてたらやばかったんじゃないか!?

確か、セレシア様はじめ世界の神様達は全員力を封印されてるんだっけ。つまり神のご加護で蘇生って無理なんじゃない?神父さんこんにちは、ここ教会ですか?あっお財布軽くなってる…なんて事もなく普通に天に召されるんじゃないの!?こっちで死んだら私帰れないじゃないですか嫌だ!生きててよかった!一人じゃなくて良かった……「ソロありがとう」「…は?」「多分ソロのおかげで私生き延びれたんだよ」「…いや、どちらかというと俺がお前に助けられたんだがな」「…信じらんねえ」「アレフに同意します。ナマエ様とソロの証言と、僕がこの目で見たものとでは違い過ぎる」ナイン君、どうしちゃったの?なんだか私への態度冷たくないですか?密かに傷ついていると、ぱんぱん、と乾いた音が響いた。にこにこと笑うムーンが手を叩いたらしかった。


「とりあえず、ここでこうしているのも時間の無駄ではないかしら?作戦会議なら宿屋でやりましょう」
「…そうだな、ムーンの言うとおりだ。サマルも探さなければいけない」
「分かった。じゃあ、ここの遺跡の抜け道使った方が早いかな。セントシュタインに戻ろう!これからの拠点になる宿屋を紹介するね」
「おいナマエ、俺はまだ……」
「ソロにはきちんと後で話すから!」
「それ、さっきも聞いんだが」


もしかしてお前、本当は俺の仲間の居場所の事なんて知らないんじゃないだろうな、とソロが呟くのが聞こえた。必死に聞こえないふりをしたけれど、いやー……説明って面倒くさいなあ。第一ソロ達の世界の魔王って、誰が復活してるんだろう。デスピサロなのかな?


**


「へえ、でかい街だな」
「ほー……なかなか綺麗な城だな。手入れがされてる」
「そういえばアレンもムーンも王族だっけ。……って、私王子様と王女様相手に様付けしなくていいの?」
「今更じゃない?私は気にしないわ」
「ならいいや!うん、同い年ぐらいだしその方が気が楽かなあ」


戻ってきましたセントシュタイン。そんな会話をしながら街へと入っていく私達なのだが、いかんせん三人での会話が途切れないようにと私は必死だった。先頭を歩くのはアレンとムーンと私。で、気まずい原因となっているのはアレフとナイン君とソロである。アレフはやたらと不機嫌そうだしナイン君は何故だか機嫌が悪いし、ソロは恨みがましい目線をこちらに向けてくるのが分かるのだ。しかし宿屋に到着するまでは我慢して欲しい。とりあえずソロには逃げられないよう部屋に閉じ込める必要があるのだ。信じてもらえなさそうだし、時間稼ぎは出来るに越したことがないし、何より遺跡だと逃げられた時とか拒否された時に追いつけなくて都合が悪くなりそうだもの。

……と、ソロへの話を引き伸ばしてきた理由はここだった。正直に言えばこの辺で導かれし者たちのうちの誰かに登場して欲しい。そうすればソロもいくらか話を聞く気になってくれると思うんだけど……「リッカ、ただいまー!」心のうちを隠しながら宿屋のドアを開け放つ。「ナマエっ!」「あれ、どうしたの?」ドアを開いた瞬間、リッカが駆け寄ってくるなんて珍しい。


「帰ってくるのを待ってたの。…あれ?この人達は?」
「後で説明するから、とりあえず部屋用意してくれる?…って、何があったの」
「"ナマエって人のお部屋はどこ?"って女の人が訪ねてきたんだ。ナマエの部屋で待ってるわ」
「…尋ね人?」


少し嫌な予感がする。もしかしてブルドーガのことで何らかのことが敵陣に知れ渡ったのだろうか?いやでもブルドーガなんて初期のボスだし……ううん、警戒に越したことはない。剣の柄じりではなく腰に下げていた短剣に手を触れた。自分の身は、自分で守らなければ―――と、決意を固めたところで奥のカウンターの方からがらがらがらん!という大きな音が響いた。「ああ、今日はにぎやかだわ…お客さんが次から次へと」「迷惑なお客さんなら追い払ってあげようか?」「違うの。迷惑っていうか……迷惑は迷惑なんだけど……」気まずそうにリッカが目を逸らす。頭を横に傾け、内部の様子を覗き込んだ。





「……その美しい銀髪、真っ白な翼……是非俺と一緒にカクテルでもどうだい?」
「だーかーらッ!やめなさいククール!不審な目が集まってるのに気がつかないの!?」
「ゼシカだって見えてるんだろ?生憎俺達にしか見えないらしいが、こんなところで天使に出会えるなんて俺達ラッキーじゃないか。しかもこんなに美人なんだぜ?ついでにこの世界の情報も知りたいし、俺はこんな美しい天使がもたらす言葉ならば嘘でもまったく後悔は無いね。とにかk「ククールにゼシカ!?」……は?」


大きな胸がぷるん、と揺れてこちらを見つめた。間抜けな声を漏らし、一つに結ばれた長い銀髪が揺れてこちらを振り向いた。銀髪の天使は普段のクールな態度はどこへやら、見事に混乱しているらしかった。……じゃない!


「……ねえ、あなた誰?」
「どうして俺達の名前を―――」


向けられたのは威嚇の目。二人の手はそれぞれの腰に携えられている武器へ。うわああああ迂闊だった!反射的に叫んじゃった私のバカ!どうしようこの状況!?



レベルアップ報酬はドジ属性追加で



(2013/06/06)

待ち人と、そして更に二名追加。