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ごめんなさい、ちょっと調子に乗ってました。


「っわきゃああ!?」
「こ、このバカ!」
「グオオオオオオオオオ!!!」


襟首を引っ掴まれて思いっきり跳躍される。驚きと共に女の子らしからぬ「ぐぇっ」という声が漏れた。着地と共に叩きつけられれた体が地味に痛い。
えっ天空の剣?そんなものとっくに手元から消えてますよ?地面に転がっていますが何か!完全に足でまといになってますが何か!


「てめ、あんだけ格好つけといて役たたずじゃねェか!」
「ごめんほんとごめん!反省してる!」


とりあえずブルドーガのガレキ攻撃を私の襟首を掴んだまま華麗に避ける4主(名前はソロじゃないかと予測)に手を合わせて謝っておく。首元が痛いしガレキは体のスレスレをかすめているけど当たっているわけではないので良し。というかこれ結構楽だなーなんて思っているとそんな感情が伝わったのか4主の足が背中に当たった。ついでに怒号が飛んでくる。


「反省で勝てるのかこのバカ!」
「ごもっともだけど初対面で名前も知らない相手に遠慮無いね!?」
「名前……そうだお前名前は?つーか何者だ!」
「私はナマエ!一応勇者らしいです!」
「一応ってなんだ一応って!」
「よしちょっと待て!人に名前を聞いたんだから自分も名乗ってよ天空の勇者!」
「その天空の勇者ってのをやめろ恥ずかしい!俺はソロだ!」
「やっぱりソロか!」
「やっぱりって何だ……っら!拾って来いあの天空の剣!」
「女の子を投げないでくださうわあああああああ!?」


まさか首根っこ掴まれながら自己紹介をするとは思ってなか……ってひっでえ!普通女の子引きずって更には剣のところまで投げ飛ばします!?4主もといソロのコントロール力は褒め称えるが後で一回殴ってやる。完全に足引っ張ってるけどそれとこれとは話が別だからな!くるりと前転し手を伸ばせば吸い付くように手元に戻ってくる天空の剣。回転の反動で起き上がる体。運動神経が鈍くなくて本当に良かったと思う。正面を見るとブルドーガが鼻息荒く立ち止まっていた。恐らく私かソロか、どちらを狙うのか考えているのだろう。


「取ったか!?」
「嫌味なぐらいナイスコントロールだったよ!」
「後でその天空の剣の事、きっちり聞かせて貰うからな!」


少し離れた場所に立つソロの表情は厳しい。声が大きいのは目の前に敵がいるから自然な事だとして、やはり私も警戒されているらしい。でもまあ……完全に警戒しているのならブルドーガに弾き飛ばされそうになった私を飛び込んだ時に咄嗟に助けてなんてくれなかったはずだ。流石は勇者、と心の中で感嘆の溜め息が漏れた。


「分かった!あと、あなたの仲間のことと今後の事も話したい!」
「……っ、何か知ってるのか!?」
「場所とかまでは知らないけど、知ってる事は全部教える!あともうすぐ私の仲間達が来るはずだから、それまで耐え切れば―――!」
「おい教えろ!ここはどこなんだ!?それに俺の――」
「今は!」


彼の言葉を遮る。同時に、少しだけ数分前と違う力が体中にみなぎるのを感じた。大声を出したからだろうか?なんというか……あの、薄い壁を破壊した時に繰り出した一撃をもう一度出せそうな、でも少しだけ違う力。

それは、不思議なエネルギー。


「―――目の前の敵に、集中して」


剣を握る手に力を込めた。そのエネルギーが腕を伝って体内から剣に流れ出て行くのを感じる。何と言えば良いのだろうか?自分の意思がエネルギーになって、外に放出されるような―――――


「……お前、それ」


小さな声が耳に届いて、思わず我を忘れていた事に気がついた。一瞬でかなりの時間が過ぎ去ったような感覚。周囲を見渡すと狙いを定めているのだろうブルドーガと、呆然と私の手元を見つめるソロが目に入った。……手元?ブルドーガの事を一瞬忘れて、思わず手元に目を落とす。


「……………あ」


有り得ない。


ばちばちと響く音は、どうして耳に入らなかったのだろうか?瞬く光はどうして視界に捉えられなかったのだろうか。第一に……どうして、出せたのだろう?体内からエネルギーが流れ出たと思ったら、それがまさか、


「ライデイン……!?」
「違う、ギガデインだ!明らかにエネルギー量が違うだろ!?」
「……っな、んで……?」


手元の剣から放出される巨大なエネルギー。……これを私が生み出したと?思わず剣を取り落としそうになる衝撃は喜びの前に戸惑いが大きい。こんな力を手にするということなのだろうか、勇者という職業は。恐ろしい。恐ろしいけど……


「――――ボサっとすんな!来るぞ!」
「っ、うん!」


唇を噛んで、剣を握り締めた。怖がってたら何も出来ない。そう、怖がる必要なんてどこにも無いはずなんだ。私はスライムにすら勝てないひどい勇者だけど、


「……守るって、決めたんだから」


大丈夫、信じているよ。サンディは必ずナイン君達を連れてきてくれるって。

どうしていきなりこんな事が出来るようになったかなんて分からない。でも、好都合だと捉えられるんじゃない?ギガデインってことは、きっと今私が繰り出せるのはギガブレイクだ。―――魔王達にも、きっと対抗出来る技。

ソロに目線を送る。ブルドーガは再びガレキを蹴散らしながらこちらへと突進してきている。ぼーっとしていればそのまま弾き飛ばされて終わりだろう。でも、今私の手元には確実にダメージを与えられそうな手段があるのだ。


「………出来る限りのフォローはしてやる」


一度だけこちらに目を向けて、剣を構え直したソロの口から確かに聞こえたのはそんな言葉だった。ありがとうは後で言う事にしよう。

今は、目の前の敵を倒す事だけ考えれば良い。



心よ、強くあれ

(私だって勇者なのだから)

(2013/05/16)

何故いきなりギガブレイクが出てきたのかは後に。
夢主は運動神経がそれなりに良い子なので現時点では全部それ任せ。意思は強いけどまだ力は追いついてないです。