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―――ソロが見知らぬ少女の乱入に戸惑う、少し前。


「………分かれ道、か」
「どうします?どこに進みましょう」


アレフの苦々しげな声が響き、ナイン君が戸惑いを隠さない声でぽつりと呟いた。破壊された事により現れた隠し通路を進むと、まあ見事に分かれ道が出現したのである。それも五本。奥から響く瓦礫の崩れる音と何やら雷のような音は途絶えておらず、先を急ぐ気持ちは全員変わらない。しかし――全員で突撃して間違いだったら?時間のロスを避けたいのは全員同じ気持ちなのだ。

と、いうわけで。


「本当に大丈夫ですか?……ああ、僕はどうすれば……!」
「どうもしなくて良いからさっさと行けこのエセ天使!」
「エセとはなんですかエセとはっ!正真正銘、僕は天使です!」
「喧嘩すんな!」


私と自らが担当する事になった通路の入口を見比べ挙動不審になるナイン君。そこに苛立っているのだろうアレフが乱入するとややこしくなるという事が見事に判明した。喧嘩を始めそうな雰囲気の二人に思わずの鉄拳制裁。ちなみに装備品はカグツチの篭手。


「ってえな!?」
「何するんですかナマエ様っ!」
「あーはいはい、説教なら後で聞くからとりあえずムーン、アレン。気をつけて行こう」
「ええ、勿論。見つけたらすぐに知らせるわ」
「ムーンはとりあえずすぐに呪文を唱えるのはやめような」
「この子は呪文も何も使えないし通達手段も無いものネ。アタシがついてってあげるわ」
「……うぐっ、ありがとうございますサンディさま!」
「分かりゃイーのヨ」


怒るアレフとナイン君はもう放置する事にして、サンディに悔しいが頭を下げる。そう、何やら歴代勇者達は魔法力を使って仲間内でテレパシーを飛ばす事が出来るというなんともご都合主義な技を持っていたのだ。魔法力を消費しなくても使える呪文らしく、まさかのアレフも習得していたのである。知らなかったとこぼすナイン君はムーンの手ほどきで数十秒後にテレパシーを会得した。使えないのは私だけ……えっ?何この足でまといっぷり!呪文も使えないし剣も使えないし私なんのためにここにいるの……


「これじゃ、宝の持ち腐れだ……」
「今更かよ!それ何つう剣なんだ?見た事もねえけどよ」
「"銀河の剣"っていうの」


銀河の剣を眺めつつの私のぼやき声に、鋭いツッコミを入れてきたのはアレフだ。まあそりゃそうだろう。私が苦心の末に錬金大成功を収めた宝剣ですよ?ほー、なんて感嘆の溜め息を吐くアレフに少し得意気になった私だが、すぐに冷静さを取り戻した。うん、まあ今は良い気分になっている場合じゃない。


「ねえナイン君、これ持っていってくれる?」
「……へ?」
「破邪の剣じゃこの先やって行けないと思うんだ。でも今の私が持っててもあんまり役に立たないし……ナイン君使って」
「っ、な!?ナマエ様、自分が何を、」
「剣だけが可能性じゃないと思うの。武器は予備の分を色々持ってきてたし、この際私色々試してみる」


きっぱりと言い切ると、ナイン君は大声で何かを言おうとして口を開いて―――閉じた。しばらく『どうしようか』とでも言いたげに彷徨っていた目がきちんと私と見つめあった時、ナイン君は私が差し出した銀河の剣を受け取ってくれた。


その後、各々が別々の通路からたった一本の遺跡の最深部への通路を探して走った。私は主に魔物と出会わないように常に聖水を振りまきながら。使う武器を選ぶ余裕すらないまま瓦礫の音を頼りに分かれ道の無い通路をただただ一直線に走り、そして。

―――行き止まりに辿りついたのだ。

多分、正解は私以外の誰かが引き当てているのだろう。でも――でも、聞こえるのだ。この壁の向こうから、一際大きく何かが崩れる音。巨大な獣の咆哮。この壁さえ無ければ確実に、この向こうが目的地だ。


「どうすんのヨ」
「決まってる。道が無いなら作れば良いじゃない」
「ワオ、とんだマリーアントワネット発言」


まあ嫌いじゃないケド、と呟いたサンディの声はどことなく楽しそうだ。釣られて口元を緩めて―――私は道具や装備が入っている袋を降ろしてそれを開いた。相変わらずの重みと比例しない数々の武器が顔を覗かせる。この壁を一撃で壊せそうなのは……ハンマー?オノ?しかしあまりに重そうな魔神の金槌なんかは全部リッカの宿屋に置いてきてしまった。袋に入れてきたのは使いやすそうな剣、それに弓矢と杖だ。急がないと時間が無い。素早く目を動かして全ての武器を一瞥すると、とある剣が目に入った。

少しそろそろ、と手を伸ばす。剣そのものは明らかに先程まで携えていた銀河の剣より軽く、それでいて破壊力はお墨付きだ。私は知っている。この剣が敵を切りつけた時、追加効果でイオ系の爆発が敵を襲う事を。


「サンディ、ここは任せてみんなを呼んできて」
「……考えがあるのネ?」
「うん、大丈夫。早くしないと本当に手遅れになるかもしれないから」


微かに聞こえたライデインの呪文はしっかりと耳に届いていたのだ。しっかりしてよネ、と私の肩をヒールで蹴ってサンディがトップスピードを出して分岐点まで戻るのを見送った。さて、私は私で他の勇者に頼らないで出来る事を増やさないと。

袋を腰にくくりつけ直し、手に馴染む剣―――天空の剣を正面に構えた。狙うのは微かに見える亀裂。


「―――――っらああああああ!」


気合と久しぶりに出す大声と一緒に剣を振り下ろした。多分、この世界に来て初めて―――それは"会心の一撃"と呼ぶに相応しい爽快感と共に繰り出された一撃だった。
ぴしり、と二箇所程切りつけた場所に亀裂が入る。直後、イオ系の追加効果の爆発。この壁は昔からあったものじゃない、人為的な薄い壁だったようだ。崩れかける直前にまで崩壊した壁を気合い一閃、蹴り飛ばして視界を広げる。

―――思わず、息を呑んだ。

傷だらけで、顔色の悪いその彼はWの……天空人と人間のハーフである勇者の一人。息が荒い事が一目で分かる。仲間は――いない。彼一人だけだ。手に握り締められているのは天空の剣。しかしお揃いだ、なんて茶化す暇も無い。


「間に合って良かった……!」


思わずの叫びにますます驚いた表情を見せる天空の勇者。彼と対峙している巨大な獣―――明らかに様子のおかしいブルドーガを睨みつける。恐らくこれはゲーム的に考えるのならばだけど、暗黒のオーブが関係しているのだろう。仲間とのパーティ戦闘がデフォルトな勇者を単体で狙うなんて…!せこい、せこいぞ大魔王共。第一Wの勇者がいないとその仲間達が協力してくれないでしょーが!というかこんな辛そうな顔させんなよWの勇者に!


「天空の勇者、今助けるよ!」


彼の元に駆け寄り剣を構えながら、この時ばかりはセレシア様を少しだけ呪う。この人は一人にしちゃいけない人だと知っているから、何故一人にさせたのかと心の中でだけ少しだけ悪態を吐く。そして戸惑う彼に対して遠慮なんてせずに隣に並んだ。あなたの仲間みたいに頼りにはならないし今出会ったばかりだけど、この人は一人にしちゃいけない。




"出会った"のは初めてだけれど

(君の事は、よく知っているから)

(2013/05/10)

仲間に信頼を寄せるようになって笑顔になれるようになった4主は多分、いきなり見知らぬ異世界に飛ばされて仲間も誰もいなくて一人ぼっちになったら相当精神的に追い詰められるだろうなあという勝手な妄想からこんな事になった。
後悔はしてない←