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※ソロ視点

まったくもって、訳が分からない。


「―――ッ、"ライデイン"!」


叫んだ呪文に反応し、巨大な魔物を貫く自らが生み出した雷。しかし…グオオオオオオ!!!と吠えるその声は衰えを感じさせないのだ。ライデインを先程から的確に何発も当て、更にはギガスラッシュも一撃綺麗に叩き込んだというのに……この目の前の魔物はどれだけタフなのだろう。

気力が持ちそうにない。気がつけば見知らぬ土地に自分一人になっていたのだ。ライアンも、アリーナも、クリフトも、ブライも、トルネコも、ミネアも、マーニャも……ピサロとロザリーも、勿論パトリシアですら先程まで一緒に居たというのに気がつけば居ない。今日は珍しく全員で集まって、エンドールで開催される武術大会に一緒に行く予定だったというのに、どうしてこうなったのだろう?


**


俺は嫌がるピサロをその気にさせようとするアリーナを横目に、パトリシアを引いてみんなとエンドールの街の入口をくぐったはずだった。そこからの記憶は一切ないのだ。いきなり真っ白な光に包まれたかと思うと――既にもう、そこはエンドールではなかった。

見知らぬ魔物がうろつく、見たこともない土地。そこは魔界でもなんでもなく、普通の人間が暮らしていた。

ここはどこだ?すれ違う旅人に声をかける事すら躊躇われた。何で――何で俺は一人になってしまったのだろう。見知らぬ土地をふらふらと彷徨う事は嫌だったから、とりあえず仲間達を見つける為の拠点が欲しかった。そして辿りついたのがこの遺跡。初めて見た瞬間、心臓が波打ったのだ。もし自分と同じようにみんながこの世界に飛ばされているのならば、可能性はある。特にアリーナは洞窟やら遺跡やらが大好きだから他のヤツを巻き込んで意気揚々と入っていくはずだ。

この中に俺以外のみんながいるかもしれない。そう思うと居てもたってもいられなくなった。少し躊躇って、思わず天空の剣を握り締めた。そのまま入口へと歩き出す。歩幅は思わずの早足。そのまま遺跡に足を踏み入れた瞬間、背後に何か光を感じたのだけど、結局振り返る事は無かった。


**


「……ッ、何だ、こいつ……ッ」


そうして一人で道を探し、最下層まで辿りついた時―――やけに崩れた瓦礫に気を取られた瞬間、大きな魔物に襲われたのだ。恐らく、目の前の"そいつ"はこの遺跡の主とでも言う存在なのだろう。見た事のない魔物だったが俺の敵ではない、はずだった。少なくとも、先程までは。


「グオオオオオオオオオオオオオ!!」
「……っ、るせえ!」


天井から一滴、ぽとりと何かがその魔物に降り注いだのだ。とてつもなく嫌な予感が背筋を凍らせた。あれは……嫌な魔力が固まって固まって凝縮されたかのような、そんな―――予想は多分、大当たり。真っ黒な液体が一滴、その魔物に降り注いだだけで明らかなレベルの差は逆転したのだ。目を血走らせ、体中から黒のような紫のようなオーラを纏ったその魔物は図体すらも当初の二倍程に膨れ上がらせたのだ。

そして自分は今、……一人。仲間が居れば多分、こんなヤツは簡単にひとひねりだろう。例え未知の魔物であってもそれは変わらない。常に力を合わせて個々の力を数倍にも高められる自分たちだという事を俺は知っていたから、今自分が圧倒的に不利な状況にある事を即座に悟ってしまう。得体の知れない場所で、背中を預けられない恐怖がぞくりと背中を襲った。体力は少しばかり厳しいものになっており、魔力は……回復を考えるならもう大技は使えない。ぎり、と歯を食いしばった。


――――どこに行ったんだよ!


心の中で叫んだその言葉は、音となって遺跡に反響する事は無かったはず、だった。


「ッらあ!」
「―――――っ!?」


崩れる瓦礫のガラガラ、という音はあまりのタイミングで耳に飛び込んで来たのだ。ぴくり、と目の前で対峙していた魔物の目線が俺の背中に向けられる。警戒心より驚きが強くて、もしかしたら仲間が助けに来たのかと期待した俺は思わず振り返った。

そして、息を呑んだ。


「間に合って良かった…!天空の勇者、今助けるよ!」


俺の事を"天空の勇者"と呼んだそいつの手元から目が離せない。自分が手にしているのは、世界にたったひと振りしかない天空の剣のはず。しかしその自分と同じぐらいの少女が手にしているのは、偽物とは思えない輝きを放つ、

――――天空の剣、だった。



まるで夢を見ているかのよう



(2013/05/07)

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