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「………えっ?」
「間違い無いわ!背中に背負っていた剣がこの"天空の剣"だったもの!」


そう言ってびし!と私が地面に描いた天空の剣を指差すムーン。その目は確信に満ちていて、何だかアレンも少し青ざめている。――という事は、記憶があるのだろう。確かキサゴナ遺跡って以前はセントシュタインとウォルロ村を繋ぐ通路だったんだよね。で、崩れたりして危険だから封鎖されていて……ああうん、フラグですね明らかに!そしてあのおてんば姫がこんな場所を見たら間違い無く入っていくだろう。それを予想したんじゃなかろうか。周囲に誰もいなければ、そう考えてしまっても仕方ないと思う。

とりあえず勇者三人目の手がかりをゲット。ならばやることは一つしかない。


「ダンジョンの内部は…簡単な作りだし、頭に入ってた…かな?」
「ナマエ様、何するつもりですか」
「何って入るに決まって、」
「駄目です!危険です!それなら僕が一人で!」


ばん!と自らの胸を叩くナイン君に思わず溜め息が漏れた。「な、なんですか」ナイン君がたじろぐのが見える。だって今私、本気で呆れていますし。この天使は……そりゃ私を危険に晒すまいとしてくれるのは心から嬉しい。でもこれは私に課せられた使命なんじゃないんですっけ?ナイン君の使命じゃないよね?というかちゃんと仕事しないとセレシア様とか見てる気がする。人任せな勇者なんて多分女神の怒りが降り注ぐと思うんだ。


「だから私は行く!」
「駄目です!僕が行きます!」
「ああもうこの天使は!人任せな勇者がいてたまるか!ナイン君が怪我でもしたらどうするの!第一ナイン君、本当に勇者がこの中にいたとして、こんな複雑な事情を一人で説明出来るの?」
「………うっ」
「第一ここだって安全とは言い難いもの。―――内部には魔物もいると思うし、三人共ついてきてくれる?」


言葉に詰まったナイン君を見て勝利を確信する。スライムにすら勝てない私ではここに居ても意味がない。ならば多少足を引っ張ってでも道案内はすべきだ。それにそう!もしかしたら何らかの才能に目覚めるかもしれないし!アレフとアレン、ムーンを振り返る。サンディ?えっ、一緒に行くなんてもう決定事項でしょ?


「当たり前だろ?ナインだけに任せておくなんて危険だ」
「ナマエはまだ経験が浅いみたいだし、俺達に任せろ」
「変なのが出てきたらイオナズンを」
「ムーンさん自重お願いします」


この短い時間の間に私が初心者だということを見抜いたらしいアレンに脱帽しつつ、ムーンに頭を下げた。ただでさえ崩れやすい遺跡だというのに彼女の破壊力抜群なイオナズンを数発受ければ全員生き埋めの可能性が出てくる。とりあえず彼女には回復に専念してもらう事にしよう。……いいよね?


**


「……予想以上に暗いね、この遺跡」


先頭を切って遺跡に入った私の、これが最初の一言だった。続いて入ってきた四人も少しばかり顔をしかめる。……足元が見えにくい。奥の方には神秘的な雰囲気の明かりが灯っているけれど――自分が\をプレイした時はこのフロアに落ちる危険性のある穴は無かった、はずだ。大丈夫だと自分に言い聞かせつつも足を踏み出そうとする。暗い場所が少し苦手だなんて絶対に言わないぞ、私は!平気な顔をして足を踏み出す。―――その時だった。


「――――――!」
「な、何だッ!?」


どおん!がらがらがらっ!大きな物音が響いて、何かが崩れ落ちる音。足元が震える。そして耳に届いたのは―――確かな人の声。男か女かは分からないし、本当にWの勇者かも分からない。でも……何か非常事態に陥っているという事は確信出来る、そんな危機感を煽る音。叫んだのはアレフで、ぱらぱらと天井から落ちる砂を受け止めているのはアレンだ。ナイン君が剣に手をかけた。ムーンが、杖を地面に向かって構える。


「音はこの奥の下から聞こえたわね」
「ええ。――床を壊した方が早いでしょう」
「えっ?ちょ、二人共―――」


思わず引き止めようとして、二人の目が本気な事に気がついて言葉に詰まる。アレンとアレフも引きつった笑いを浮かべていた。……なんとなく、私にも二人の意図するところが見えた……気がする。いや見たくなかった。えっ、本気ですか?いや確かに非常事態だけど本気ですか?


「下がっていてください、ナマエ様」
「な、ナイン君…?ちょっと考え直そう、流石にそれはまず、」
「―――行きましょう、ナイン君」
「ええ、ムーンさん」
「お願いストッ―――――!」


「「"イオナズン"」」


ああ、ナイン君もイオナズン使えたのか……無情にも唱えられた二人分のイオナズンは相当な破壊力で遺跡の床を消失させた。本当に言葉通りに消失させたのだ。それにより現れたのはゲームじゃ知らなかった隠し通路。どうやら最深部までの大幅なショートカットが出来るようだった。

何かが崩れる音はまだ続いている。この遺跡の主である獣が暴れているのだろうか?とりあえず笑顔でハイタッチを交わしたナイン君とムーンが過激派だという事は深く心に刻み込んでおこう!いつでも思い出せるように!



イオナズン系天使と王女

(もう使えなくなった遺跡の一階に合掌)

(2013/05/02)

ナマエは、深く心に刻み込んだ!▼